ダウン症の兄をもつ二人の弟。その関係は普通の兄弟とは少し違います。
「お兄ちゃんは僕にはできないことができる」
「お兄ちゃんは何でも僕より先だ」
いわば、お兄ちゃんは弟にとって一番近くにいる先輩です。憧れの存在にもなるお兄ちゃん。
しかし、お兄ちゃんがダウン症となるとそれは違ってくるのです。
ライバル出現
3歳違いで生まれてきたダウン症のR君と弟のU君。U君の誕生の際には手を叩いて喜んでいたR君ですが、自分の弟といった認識はできていなかったと思います。
U君がハイハイをして動き出すようになると、R君の標的に!まだ抵抗ができないU君の顔を引っ掻いたりといったことはしょっちゅうでしたね。
それはR君なりのアピールだったのでしょう。今までは自分にかかりきりになっていたママが、U君のお世話に時間をさいて、R君にしてみるとママがとられたような感情を抱いても仕方ありません。
もちろんR君のお世話も大変で、十分に手をかけていたつもりですが、お世話をする対象が1人から2人に増えた現実をR君は受け止められなかったと思います。そして、U君への攻撃に出たのです。
またまたライバル出現
U君が2歳になると末っ子のG君が生まれました。R君が5歳の秋です。
その頃にはU君のお世話は随分楽になっていましたが、R君にとってはまたまた一大事です!ママを占領する新たはライバルが出現だからです。
でも次男のU君にしていた「叩く」「引っ掻く」の行為は、不思議なことにG君にはなかったです。R君も5歳になっていたので、自分の弟といった感情が芽生えていたのでしょうか。成長ですね。
プライドを捨てて
弟のU君とG君が順調に成長をしていき、できることが色々と増えていきました。平仮名だって数字だって、小学校に入学前にマスターしてしまいました。
ところが、R君にはなかなか文字が理解できずに、勉強面はあっという間に抜かされてしまいました。
「僕がお兄ちゃんなのに、弟の方が色々できるな・・・」お兄ちゃんのプライドが崩れるようなことは数えきれないほどありました。
その度に私は「R君はR君のスピードでいいからね」と声をかけてきましたが、お兄ちゃんの威厳を保ちたいと考えるR君にとってはストレスの塊だったでしょう。
しかし、R君6年生・U君3年生・G君1年生になると、状況が変わりました。R君は弟たちと張り合うことをやめ、逆に弟たちを上手く利用するようになったのです。
「コレなんて読むの?」
「テレビの録画映して!」
「ジュースあけて」
お兄ちゃんのプライドを脱ぎ捨てたのでしょう!
張り合ってもムダ。だからやってもらっちゃおう!なんて意識になったのでしょう。変な意味ではなく、R君の中で年上のこだわりが無くなったのでしょうね。
障害をもつお兄ちゃんがいること
障害がある子と障害がない子、一緒に育てる過程では親はたくさん悩みます。障害がある子だけを特別扱いはしてはいけないけれど、どうしても手がかかってしまう。兄弟はほったらかし・・・なんてこともあるでしょう。
でも、親が一生懸命になっている姿を子供たちは見ています。たとえ「お兄ちゃんばっかりズルいな」と思っていても、親のことを憎んでいる子供はいないと思います。
親がしていることをしっかりと見ていて、いつしか自分たちもお兄ちゃんの力になろうと思ってくれているはずです。
ある日、外出先でR君が迷子になりました。血相を変えて探しまわる私と主人の前で弟たち2人がやったこと・・・それはお兄ちゃんが大好きな歌を大声で歌いだしました。
すると、その歌声とは別の声が・・・R君が歌につられてやってきたのです。私と主人は顔を見合わせて思わず、笑ってしまいました。
障害がある兄弟をもつとその兄弟たちには苦労があると思います。しかし、兄弟たちはまわりをしっかりと見る子に育ってくれると思います。
ハンディがあっても一生懸命に頑張っているお兄ちゃんをみて育つのですから、他人の頑張りを認めることができる人になります。
これから先、多くの人と出会い、その中には障害をもつ人もいらっしゃるでしょう。その人たちに自然に寄り添うことを兄弟との関係で身につけている子供たちは、きっと大きな優しさをもつ人になると思います。
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イラスト by hiro