子どもは可愛いものですが、子育てというものは本当に大変なものです。育児に対するストレスがやがては育児ノイローゼとなり、ついには虐待にまで発展してしまうケースも少なくありません。
子どもへの虐待が問題視されている昨今、その原因にもなり得る育児ノイローゼについてもまた、各方面でとり上げられることが多くなってきました。
育児ノイローゼや虐待といった問題はどこか他人事のようにも思われがちですが、子育て中の母親であれば誰しもがいつ経験してもおかしくはない身近な問題なのです。
育児ノイローゼとは具体的にどういったものであるのか、どのような症状が現れるのかなどの情報をはじめ、育児ノイローゼが関連した虐待についてなどの情報をまとめました。セルフチェックもありますので、ご自身がどれだけ該当するか、その危険度を知るためにも一度チェックしてみてください。
育児ノイローゼとはどんなもの?
育児ノイローゼとは、子育て中の期間において情緒面(精神面)の不安定さを呈する状態をいいます。
育児ノイローゼという言葉は正式な病名ではなく、うつ状態やそれに伴う睡眠障害、ヒステリーなど、生じ得るさまざまな症状を総称した呼び方です。そうした症状で病院を受診したなら、うつ病、自律神経失調症、心身症、不定愁訴などと診断されることが多いでしょう。
育児ノイローゼの定義
「ノイローゼ」とは本来、ドイツ語で神経症という意味です。育児が関連して神経症をきたしている状態を、日本では一般的に育児ノイローゼといいます。
子育てを負担に感じたり、育児に対する不安や焦りなどの育児ストレスが積もりに積もって、いわゆる育児ノイローゼと呼ばれる神経症を発症するに至るわけですが、どれだけの症状があれば育児ノイローゼにあたるのかの具体的な定義はなく、その線引きは困難です。
つまりは少しの悩みでも「自分は育児ノイローゼだ」と本人が思えばその人は育児ノイローゼですし、本人の自覚がないままついには虐待や無理心中などの悲しい事件に至ってしまったケースもあります。
このように育児ノイローゼにははっきりとした定義はなく、その程度もさまざまです。
厚生労働省の調査によると、子育て経験者の約半数近くが「自分は育児ノイローゼではないか」と思ったことがあるとするデータがあり、その割合の高さからも、育児ノイローゼになる確率は低くはなく、決して他人事ではないと言えるでしょう。
なりやすい時期
育児ノイローゼがいつからいつまでの期間に生じやすいのかはその人を取り巻く環境などが大きく左右するため一概には言えませんが、一般には子どもに手がかかる時期になりやすい傾向にあります。
手がかかるとされる子どもの年齢(月齢)には個人差もありますが、おおよその時期は次の通りです。
赤ちゃんは生後1ヶ月を迎える頃までは昼夜問わず頻回な授乳が必要であるため、お母さんにはまとまって眠ったり休んだりする時間がありません。産後の疲れを癒す間もなく赤ちゃんのお世話に追われるこの時期は、お母さんにとっては最も過酷な時期といえるでしょう。
初めてのお子さんであれば赤ちゃんのお世話自体が慣れないでしょうし、2人目以降のお子さんであれば上の子のお世話も必要であるため、育児の負担はさらに増します。
出産に伴うホルモンバランスの変化によって、産後うつを発症しやすくもあるこの時期は、生理的にも情緒が不安定となりやすく、育児ノイローゼを発症しやすいのです。
この頃の赤ちゃんはハイハイができるようになってくるので活動範囲が広がり、何にでも興味を示して手に触れたものを口に入れるなどするため、これまで以上に目が離せなくなります。
少しずつ生活のリズムが整ってきたかと思いきや、夜泣きがはじまる赤ちゃんもいますし、丁度離乳食の開始時期ですから食べることに関しての悩みも出てくるでしょう。
赤ちゃんの成長の個人差も大きくなってくる頃なので、他と比べて落ち込んだり悩んだりするお母さんも増えてきます。
丁度歩き始める頃で活動範囲はさらに広がり、危険なことも増えるためにお母さんは気が休まらないことでしょう。
この頃ではもうしっかり3食の食事を用意しなければなりませんし、かといって大人と同じものを食べさせるには早い時期ですので、料理の手間もかかります。
夜泣きや夕方に泣く黄昏(たそがれ)泣きが続く赤ちゃんもいますし、寝る時間が減ってくるため疲労が溜まってしまうお母さんも多いです。
この年齢は第一次反抗期で、いわゆるイヤイヤ期です。次第に自我が芽生え、その名の通り何でもイヤイヤと大泣きし、かんしゃくを起こしてお母さんを困らせることも多いでしょう。
イヤイヤ期のピークは2歳から3歳頃で、4歳頃になれば多少は落ち着てくる筈です。かと思いきや今度は言葉が巧みになってきますから、違う形で自己主張が激しくなり、手を焼くお母さんも多いかもしれません。
思春期に入ると、第二次反抗期がはじまります。個人差も大きいため何歳まで続くかはわかりませんが、小児と大人の境界にあたる思春期の子どもの扱いは難しいものです。
一般に育児ノイローゼは小さな乳幼児のお母さんが悩むものだと思われがちですが、この時期に子育てに思い悩む人も少なくありません。
子どもが非行に走ったことで育児への自信を喪失し、自分の所為であると自らを責めるケースや、体罰を与えるか否かで葛藤するケースもあります。
育児ノイローゼが及ぼす悪影響
お母さんが育児ノイローゼの状態にあると、子どもや家庭にさまざまな悪影響が及んでしまう可能性があります。
お母さんに怒鳴られてばかりいると、子どもの情緒も不安定になりがちです。幼児期や学童期では、いつもイライラしているお母さんの顔色をうかがって家庭で抑圧されているぶん、外での問題行動が増えてしまうこともあります。
まだ何もわからないような顔をしている赤ちゃんであっても、お母さんの気持ちを敏感に感じ取っています。お母さんがイライラしていると赤ちゃんは泣きやまず、そんな赤ちゃんをあやすお母さんはさらにイライラしてしまうという悪循環に陥りがちです。
また赤ちゃんに接するお母さんに笑顔がなかったり、話しかける機会が少なかったりすると、赤ちゃんの感受性も乏しくなるとされており、赤ちゃんとお母さんのコミュニケーションは赤ちゃんの心の成長を促すために必要不可欠なものと言えるでしょう。
このように赤ちゃんの情緒を十分に育むには良好な母子関係が必要であるため、それが欠如してしまいがちな育児ノイローゼは、赤ちゃんへの影響も少なからずあると言えます。
笑顔がない、いつも苛立っている、家事が疎かになるなどといったことから、家庭の雰囲気も悪くなり、良好な家族関係が保てなくなることがあります。
育児ノイローゼに理解があり、育児や家事などを積極的に手伝ってくれたり話を聞いてくれたりして支え合える家族ならよいのですが、非協力的であったり一方的に責め立てるような家族では、育児ノイローゼはますます悪化してしまいます。
協力的な家族であっても、支えようとしてくれるぶん家族の負担が増えるわけですから、頑張り過ぎた家族にもストレスやフラストレーションが溜まってしまい、その結果関係が悪化してしまうこともあります。
育児ノイローゼになると子どもに対してだけでなく、夫にもヒステリックに怒鳴り散らしたり、感情的に泣き出したりしてしまうというようなことがあります。
仕事で疲れて帰ってきたところへ妻にそんな態度をとられると、本来休まるべき場所であるはずの家が、帰りたくない場所になってしまうかもしれません。実際に妻の育児ノイローゼが原因で、夫の方から離婚を切り出すというケースもあります。
育児ノイローゼから虐待に発展することも
近年虐待のニュースを耳にする機会が増えてきましたが、その中には育児ノイローゼが原因となっているものもあります。育児ノイローゼは最愛の子どもに危害を及ぼしてしまいかねない、深刻な問題なのです。
虐待件数の推移
厚生労働省の報告によると、児童相談所に寄せられた虐待の相談件数は年々増加しています。これは平成12年に児童虐待防止法が施行され、昔に比べて虐待への意識が高まったことで、周囲からの通報が増えたためと考えられています。
子どもが死亡に至った虐待死や、心中による死亡数は児童虐待防止法施行後は減少傾向にはありますが、現在に至るまで尚高い水準で推移しています。
虐待の内訳
平成24年度の統計によると、虐待の種類は身体的虐待が35.3%と最も多く、次に心理的虐待33.6%、ネグレクト(育児放棄)28.9%と続きます。虐待者は実母によるものが全体の57.3%を占め、次点の実父29.0%の2倍近くにものぼります。
虐待を受けた子どもの年齢は小学校入学前の子どもが43.5%で、虐待死した子どもの半数近くが0歳児とされ、2歳までが7割近くを占めます。特に月齢0ヶ月といった出産から間もなくしての虐待死が多くなっています。
育児ノイローゼと虐待の関連
児童虐待事件は0歳児が最も多く、2歳児までを含めると全体の大部分を占めることや、虐待者の半数以上が実の母親によるものであることを踏まえると、育児ストレスや育児ノイローゼによる影響は無視できないものと言えるでしょう。
育児ノイローゼの末に乳幼児を虐待死させてしまうケースでは、衝動的に暴力を振るってしまったり、ネグレクト、すなわち育児をせずに放置した末に栄養失調などで死亡させてしまうといった例が挙げられます。
行政の活動により虐待死に至る前に保護されるケースも増えているのですが、残念な結果になってしまうケースも後を絶ちません。
もしかして?育児ノイローゼのセルフチェック
育児ノイローゼは子育て中であれば誰にでも生じる可能性があります。その症状にどれだけ自身が該当するか、チェックしてみましょう。
- 子どもは可愛いが、接しているとイライラすることが多い
- 子どもだけでなく夫にもイライラする
- 感情のコントロールがきかないと感じることがある
- つい大きな声で感情的に怒鳴ってしまう
- 子どもを叱るときに思わず叩いてしまう
- ヒステリーを起こしたり、発狂したりしたことがある
- 暴力や暴言などの攻撃的な言動を自制できないことがある
- 全てを放り出して逃げ出したいと思うことがしばしばある
- 子どもや家族と離れて1人になりたい
- 子どものご飯を作らなかったり、お風呂に入れなかったりする
- 頑張っているのに報われていない感じがする
- 何事にもやる気が起きず、家事が億劫で仕方がない
- これまで好きだった趣味が楽しいと思えなくなった
- 常に睡眠不足で身体がだるい
- 寝つきが悪く、あまり眠れない
- なるべく人に会いたくないため、家に引きこもっている
- 子どもが可愛いと思えなくなってきた
- 食欲がない ・食べてばかりいる
- 突然理由もなく涙が出てくる
- テレビなどでお笑い番組やバラエティを見ていても全く笑えない
- 何らかのきっかけでパニック状態になることがある
- 悪い方にばかり考えてしまい、悲観的になって落ち込む
- ミスや物忘れが多い ・ひとつのことに集中できない
- 気づいたらぼんやりしている
- 頭痛や吐き気、動悸といった症状が続く
- とにかく全てが不安で仕方がない
- 周囲から非難されているように感じることが多い
- 周囲から被害妄想だと指摘されることがある
まとめ
育児ノイローゼは誰もが生じ得るものであり、決して他人事ではありません。育児ノイローゼを悪化させないためには、まず「もしかして育児ノイローゼかな?」と自分で自覚することが重要です。
自身で自覚できずに対処が遅れてしまうケースもあるため、周囲の人が気づいてあげることも大切と言えるでしょう。