膀胱が炎症をきたす膀胱炎は、多くの女性が発症する身近な疾患で、特に妊娠中はなりやすいものとされています。
一度は耳にしたことがある人がほとんどだと思いますが、どうして膀胱炎になるのか、その原因や誘因について知らない人は多いのではないでしょうか?
そのため今回は膀胱炎の原因や、妊娠中に発症リスクが高くなる理由、予防のために気をつけることなどをわかりやすく解説していきます。
膀胱炎を発症する原因は?
膀胱炎は尿路に何らかの異常があって生じるものもありますが、ほとんどは細菌の感染によって引き起こされます。妊娠中によくみられる膀胱炎も、細菌性の膀胱炎です。
尿路の上行性感染が原因
上行性感染とは、尿道から侵入した細菌が尿の流れとは逆にさかのぼっていくことで引き起こされるようなものをいいます。
侵入した細菌が尿道、膀胱のみに留まらず、さらに上行性感染をきたして尿管、腎臓の腎盂(じんう)に到達すると、腎盂炎を発症し、症状はより重症なものとなります。
膀胱炎をきたす原因となる細菌は、その80%以上が大腸菌です。普段から外陰部には大腸菌が少なからず付着しており、それらの菌が多少尿道から侵入したとしても、本来体に備わっている自浄作用や免疫力が働いて膀胱炎となることはありません。
しかし何らかの原因で抵抗力が落ちている場合や、膀胱内で細菌が増殖しやすい環境にあった場合には、膀胱炎を発症してしまうことがあります。
大腸菌の他には、黄色ブドウ球菌が5~10%程度を占めます。黄色ブドウ球菌もまた、腸管の中や皮膚に常に存在する常在菌です。
他には肺炎桿菌やプロテウス、シュードモナス属、エンテロバクターなどの細菌によって引き起こされることが知られています。
必ずしもこうした原因菌が明らかになるわけではなく、膀胱炎の症状があるにもかかわらず、一般の細菌検査で細菌が検出されないケースも10%程度にみられます。
何度も繰り返す場合は要注意
妊娠中は膀胱炎を発症しやすいものですが、一度膀胱炎が治ってもすぐに再発したり、治りが悪かったり、何度も発症を繰り返すケースでは、次のような病気が背景となっている場合があります。
尿路結石とは、尿路に結石(カルシウムなどを含む石)ができたものをいいます。発症率の男女比は「男性2.5:女性1」と男性に多い疾患ですが、女性にも十分起こり得るものです。
腎臓で形成された結石がその場に留まっている場合は症状に乏しいのですが、結石が尿とともに尿管へと降りてくると、激しい痛みや血尿が生じます。
尿管は狭く、結石が詰まることで尿の通過を妨げてしまうため、尿が停滞して細菌が増殖しやすい環境となってしまいます。その結果腎盂炎を発症したり、膀胱炎を併発することがあります。
また結石が膀胱に近づいてくると、それが刺激となって頻尿や残尿感といった膀胱炎に似た症状が生じることがあります。膀胱炎だと思って治療をしていても改善しないため詳しく検査すると、実は尿管結石だったというケースもあります。
血尿が主な症状で、初期では痛みを伴うことはほとんどありません。進行すると、排尿時の痛み、頻尿、残尿感といった膀胱炎に似た症状をきたします。
排尿をコントロールする大脳や脊髄、末梢神経などが障害されることによって、排尿障害をきたすものをいいます。頻尿や尿失禁、排尿困難などの症状が生じ、尿がうまく排泄されなくなることから膀胱炎を発症することもあります。
尿道に良性あるいは悪性の腫瘍を生じたものをいい、血尿や排尿時の痛み、頻尿などの症状が生じます。
先天的な尿路の奇形によって、尿路のどこかが狭くなっていたり、膀胱に溜まった尿が尿管や腎盂に逆流してしまうといったケースでは、細菌感染や細菌の増殖が起こりやすく膀胱炎などの尿路感染症を繰り返すことがあります。
糖尿病によって自律神経が障害され、神経因性膀胱を合併して膀胱炎を繰り返すことがあります。また糖尿病では体の免疫力が低下することが知られており、あらゆる細菌感染症を発症しやすくなるとされているため、膀胱炎も例外ではありません。
膣と尿道口は隣接しているため、クラミジアなど婦人科系の性感染症があった場合は膀胱炎を発症しやすくなります。クラミジアは感染しても女性の大半は自覚症状を感じないとされていますが、ときとして尿道に入り込んだクラミジアが膀胱炎の原因になることもあります。
妊娠中に膀胱炎になりやすいのはどうして?
女性が膀胱炎になりやすい理由
女性はもともと膀胱炎になりやすく、女性の大半が人生のうちで1回は膀胱炎を発症するといわれるほどです。女性が男性よりも膀胱炎になりやすい理由は、次のようなものが挙げられます。
女性の尿道は男性よりも短く、膀胱に細菌が到達しやすいことが挙げられます。
男性とは違い尿道口と肛門の距離も短く、膣も隣接しているために細菌が侵入しやすいといえます。
男性のように尿道口が露出しておらず、周囲に細菌が繁殖しやすいのも理由の一つです。
妊娠中に膀胱炎をきたしやすい理由
膀胱炎になりやすい女性ですが、妊娠中は次のような理由でさらに発症のリスクが高くなるとされています。
赤ちゃんが大きくなるにつれ、子宮に膀胱が圧迫されて膀胱の収縮機能がうまく働かなくなり、残尿が増えがちになります。残尿が増えると膀胱内に尿が長時間留まることになるため、細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎をきたしやすくなります。
妊娠後期になると子宮による圧迫で膀胱内の容量が減るため、頻尿の傾向が強くなります。あまりに頻回に尿意を感じるため、何度もトイレに行くのが億劫で排尿を我慢したりすると、細菌が膀胱内に増えてついには膀胱炎を発症してしまうことがあります。
妊娠中は免疫力が低下しやすく、感染症を発症するリスクが高まります。免疫力が低下すると体の防御反応が弱まるため、普段は害を及ぼさない常在菌によって思わぬ病気をきたすことがあります。
カンジダ膣炎がその典型的な例で、膣内の常在菌であるカンジダ真菌が抵抗力が弱まったのを機に異常に増殖し、膣炎を発症させます。
膀胱炎もまた、普段は免疫力により発症せずに済む場合であっても、妊娠中はこうした理由によって発症してしまうことがあるのです。
妊娠中は、おりものが増加する傾向にあります。これはホルモンバランスの変化や、赤ちゃんを細菌などから守るために膣内の分泌物が増える生理的な反応です。
しかしおりものが増加することによって外陰部の清潔が保たれにくくなり、細菌が増殖しやすい環境になってしまいがちです。
膣と尿道口は場所が近いため、増殖した細菌が尿道へと入り込み、膀胱炎などの尿路感染症を発症させてしまいます。
妊娠中の膀胱炎はこうして予防しよう
膀胱炎の予防は、細菌を尿道口から侵入させないようにし、膀胱内で繁殖させないようにすることが基本です。そのためには外陰部を常に清潔に保ち、水分を十分に摂取して多くの尿量を確保し、膀胱内に長時間尿を溜めないようにしましょう。
ごく軽症の膀胱炎では、これだけで症状が改善されることもあります。食事や運動など日々の生活に気を配り、免疫力を高めておくことも大切です。
まとめ
女性は膀胱炎になりやすいものですが、妊娠中はさらにリスクが高まるため、膀胱炎を発症してしまう妊婦さんは決して珍しくありません。
膀胱炎の症状はつらいものですから、日頃から清潔の保持や十分な水分の摂取などできることを心がけ、予防に努めるようにしましょう。