妊娠中はさまざまな不調をきたしやすいものですが、頭痛もそのうちのひとつです。妊娠中はむやみに鎮痛剤を服用できないため、ひたすらつらい痛みに耐えているという人も多いのではないでしょうか?
一言で頭痛といっても妊娠中の頭痛には多くの原因が考えられ、中には決して軽視できないものもあります。
そこで今回は妊娠中の頭痛をきたす原因にスポットを当てて、それぞれについて詳しく解説していきます。
緊張型頭痛
緊張型頭痛とは、脳の血管が収縮することによって引き起こされる頭痛です。首や肩、背中といった頭部の周辺の筋肉が緊張して血流が悪くなることによって、筋肉の中には乳酸やピルビン酸といった老廃物が停滞します。
それらが周囲の神経を刺激することで痛みが引き起こされるため、頭痛のほかに首筋や肩の凝り、眼精疲労などを伴うことも少なくありません。
緊張型頭痛は頭痛の原因としては最も多く、一般的には運動量の少ないデスクワークの人や、長時間パソコンを使用するような人に多く発症する傾向にあります。
そのため現代病とも言われる疾患ですが、妊娠中の頭痛もこの緊張型頭痛であるケースが多く、発症する誘因には次のようなものが挙げられます。
運動量の減少
妊娠すると、体調の不良や体系の変化により運動量が減少しがちです。すると動かされることの少ない肩や首、背中といった筋肉は特に凝りやすくなります。
運動量の減少に伴って生じる緊張型頭痛では、妊娠中にもできる軽い運動やストレッチで凝った筋肉を解してやることによって、軽減することができます。
体の重心の変化
妊娠週数が進みお腹が大きくなってくると、これまでとは体の重心が変わってくるため、今までとは違った筋肉に負担がかかるようになります。その結果筋肉に疲労物質が溜まり、緊張型頭痛の引き金になることがあります。
水分量の不足
妊娠すると羊水にも水分が必要となり、摂らなければならない水分量が増加するため、容易に水分量が不足してしまいがちです。
本来妊娠中は血液量が増加するため血液は薄まる傾向にあるのですが、水分量が不足していると血液の粘稠度(ねんちゅうど)が高まり、血流が悪くなりがちです。
血流の悪化に伴い緊張型頭痛の症状が出現することもありますので、妊娠中はこまめに水分を補給することが大切です。
ストレス
長時間に及ぶ同一体位の保持や不自然な姿勢などによってもたらされる身体的ストレスは勿論ですが、精神的なストレスも緊張型頭痛の大きな誘因のひとつとされています。
精神的なストレスが持続すると、脳に備わる痛みをコントロールする部位の働きに支障をきたすようになり、実際には筋肉に緊張などがないにもかかわらず痛みを感じるようになることがあります。
妊娠すると何かと不安になったり情緒が不安定になることが多く、精神的ストレスも感じやすいといえるため、ストレス性の緊張型頭痛が生じることも少なくありません。
片頭痛(偏頭痛)
片頭痛とは緊張型頭痛とは逆で、脳血管が拡張することによってきたされる頭痛をいいます。片頭痛が生じる原因としては、血管を収縮させる作用をもつセロトニンという神経伝達物が過剰に分泌されることにより引き起こされるという説や、血管の周囲を取り巻く三叉神経が刺激されて引き起こされるという説などがあります。
片頭痛に悩む人の約8割が、妊娠中は片頭痛の発作が消失あるいは軽減したというデータがあり、一般的には妊娠すると片頭痛は治まる傾向にあります。しかし次のような誘因で妊娠中に片頭痛が生じるケースもあります。
ホルモンバランスの変化
妊娠すると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が増加しますが、片頭痛に関連するとされるセロトニンの分泌量は、エストロゲンと連動することが知られています。
女性ホルモンの働きによって繰り返されている月経周期に合わせ、片頭痛が生じることが多いのはこのためです。
一般的に妊娠中はセロトニンが多く分泌されても分泌量の増減が少なく、ホルモン量は常に多めで安定するため、脳血管が過度に拡張するようなことは少ないといえます。
しかしホルモンバランスが安定してくるのはある程度妊娠週数が進んでからになるので、ホルモンバランスがまだ安定しない妊娠初期では、片頭痛が悪化することもあります。
ストレス
緊張性頭痛でも前述しましたが、ストレスは片頭痛の発作の誘因ともなります。精神的ストレスは脳血管を取り巻く三叉神経を刺激するといわれており、それによって片頭痛が引き起こされてしまうことがあります。
また脳の血管周囲にある自律神経は血管を収縮させたり拡張させたりして血流をコントロールする働きをしていますが、ストレスによってこの自律神経が乱れることがあり(自律神経失調症)、その結果頭痛をきたしてしまうことがあります。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血とは、血液中の赤血球の数や赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度が低い状態をいいます。赤血球は肺から受け取った酸素を全身へ運搬する役割を担う細胞ですが、この働きは酸素と結合するヘモグロビンの特性によって成り立っています。
このヘモグロビンをつくるには鉄分が必要不可欠で、鉄分が不足することによってヘモグロビンの合成量が足りなくなり、鉄欠乏性貧血となります。
妊娠すると胎盤をつくるために多くの血液が必要となるため、母体の循環血液量は非妊娠時に比べておよそ1.5倍にまで増加します。このとき血球量も多少は増加しますが、血液の水分量のほうが増加量が大きいため、血液の濃度は相対的に薄くなってしまいます。そのため妊娠時は、必然的に貧血傾向となりやすいのです。
出産時の出血量には個人差もありますが必ず出血しますので(500ml以下であれば正常範囲内)、貧血を改善させないまま出産に臨むと、出産後さらに貧血が悪化してしまうことになります。
妊娠中は鉄分を積極的に摂取し、必要に応じて適切な治療を受けるなどして貧血を改善し、出産時の出血にあらかじめ備えておくことが大切です。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群とは妊娠時に高血圧となる病態をいい、重症のものになると母児ともに命にもかかわる事態を引き起こします。
以前は蛋白尿(たんぱくにょう)や浮腫などの症状と合わせて妊娠中毒症と呼ばれていましたが、それらの症状を伴わず高血圧のみであってもリスクは高まるため、妊娠高血圧症候群と名称が改められました。
妊娠高血圧症候群を生じるメカニズムとしては、胎盤がつくられる過程で何らかの不具合があり、母体と胎児の間の血流がうまく流れない状態にあるにもかかわらず、無理に血液を流そうとして母体の血圧が高まるという説があります。しかし明らかな原因については、いまだよく分かっていないとされています。
注意しなければならないのは、頭痛が子癇(しかん)発作の前駆症状として現れているケースです。子癇とは、妊娠高血圧症候群によって引き起こされる高血圧性脳症の病態を指します。
高血圧性脳症とは、急激に血圧が上昇したり、長期間高血圧の状態が持続したりした影響で、代謝異常をきたして脳の中に水分が溜まり、脳浮腫(脳がむくんだ状態)を引き起こしたものをいいます。
脳浮腫になると脳が腫れるため、頭蓋内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が高くなり、頭重感や頭痛、ひどい場合にはけいれんや意識の消失などをきたします。
関連記事:妊娠高血圧症候群とは?発症する原因は?どういった症状が出るの?
脳血管障害
脳血管障害とは、血栓が脳血管に詰まる脳梗塞や、脳血管が破れて出血をきたす脳内出血の総称です。一般に脳梗塞では頭痛は生じませんが、脳内出血ではとても痛みの激しい頭痛が生じるのが特徴です。
高血圧により血管の圧力が高まったり、動脈硬化によって血管が狭窄したりすることで発症のリスクが高まるほか、妊娠によっても危険性は高くなるとされています。
その原因としては、母体の循環血液量が増加することや、ホルモンの作用で脳血管が拡張しやすいこと、血液を固める凝固系が亢進し血栓を生じやすくなることなどが挙げられます。
特に抗リン脂質抗体症候群という自己免疫疾患を有している人では血栓を生じやすく、無事出産するためには適切な治療が必要となります。
妊娠悪阻(にんしんおそ)
頭痛の症状をつわりの一つとして捉えることもありますが、厳密に言えばホルモンバランスの変化からくる片頭痛であったり、筋肉の凝りからくる緊張型頭痛であったりと、その原因はさまざまです。
関連記事:重症妊娠悪阻とは?どういった症状が出るの?何が原因なの?
まとめ
妊娠中に頭痛をきたす原因は、片頭痛や緊張性頭痛といった緊急性の低いものから、妊娠高血圧症候群といったリスクの高いものまでさまざまです。
以前より慢性頭痛を生じやすい人の場合は特に、いつもの頭痛発作だろうと軽く見てしまいがちですが、もしかすると異なる原因が潜んでいるかもしれません。
妊娠中の頭痛に悩まされているという人はくれぐれも自己判断することなく、必ず定期的に妊婦健診を受け、産婦人科でしっかりと診てもらうようにしましょう。