妊娠中に気を付けたいトラブルの一つ、「妊娠高血圧症候群」。名前を聞いたことはあっても、どのような症状が出るのか、そして赤ちゃんにどのような影響があるのかあまり知らないという人も多いのではないでしょうか。
以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていたこの病気は、2005年から「妊娠高血圧症候群」という名前に変更されました。「妊娠中毒症」という名前の方が馴染みがあるという人もいるかもしれませんね。
実はこの病気、悪化すると母子ともに命に関わることもある非常に怖いもの。妊娠高血圧症候群の原因や症状、どのように治療するのか、入院となった場合はどのくらい費用がかかるものなのかについてご紹介しています。
妊娠高血圧症候群とは?
妊娠高血圧症候群とは、妊娠中・出産直後特有の病気です。妊娠20週から産後12週までに起こり、高血圧とたんぱく尿があった場合に、妊娠高血圧症候群と診断されます。妊産婦の5~10%の人が発症すると言われています。
診断されると、血圧や尿中のたんぱくの量を注意深くチェックして症状が悪化しないよう、治療・指導を受けます。症状によっては入院し、食事療法と安静を基本に治療する場合も。
高血圧の上昇を放っておくと、妊産婦や赤ちゃんの死亡や障害など深刻な事態を招きかねません。そのため、しっかりと医師の指示に従うことが悪化を防ぐためには重要となります。
早期発見が大切
重症化すると、出産するまでなかなか治りにくい妊娠高血圧症候群。だからこそ、早期発見が必要です。わずかな変化にも気づけるよう、健診では毎回次のチェックをしています。
- 血圧測定
- 尿検査
- 体重測定
- むくみ確認
検査の結果、医師から「血圧が高めなので注意するように」などの指示が出ることがあります。その場合は、必ず守るようにしてください。
妊娠高血圧症候群が発症する原因は?
実は、妊娠高血圧症候群の原因は明確にはなっていません。
- 胎盤の形成不全により血流が滞るため
- 胎児を異物とみなしてしまい、母体の免疫機能が働いた結果
など、いくつかの説がありますが、まだはっきりとはしていないのが現状です。いろいろな要素が絡み合って発生しているものと推測されています。
なりやすい人
妊娠高血圧症候群の原因ははっきりとは分かっていませんが、「なりやすい人」の傾向は分かっています。これらに当てはまる人は、妊娠高血圧症候群のリスクが高まるので、より注意が必要です。
- 初産婦
- 高齢出産の人
- もともと高血圧の人
- 腎臓や心臓の持病がある人
- ストレスを感じている人
- 肥満気味の人
- 多胎(双子や三つ子)を妊娠している人
予防方法は?
原因が不明瞭なため、明確な予防方法は確立されていません。でも、上記のリスクを少しでも減らすことが予防につながると言えるでしょう。
年齢や持病などはどうすることもできませんが、例えば太りすぎないように気を付けたり、高血圧にならないような食事にしたりすることはできます。日々の生活では、次の点を心掛けるようにしてください。
- 塩分やカロリーの取りすぎに注意する
- 適度な運動を心掛ける
- 十分な休養を取り、ストレスを溜めないようにする
関連記事:妊娠高血圧症候群を発症しない為の食事&運動面での予防法まとめ
妊娠高血圧症候群が発症するとどういった症状が出るの?
次の3つの症状は、妊娠高血圧症候群の「3大症状」と呼ばれています。
妊娠高血圧症候群になると、毛細血管が縮み血液が滞ってしまい高血圧を引き起こします。
最高が140、最低が90以上の血圧は要注意。血液の流れが悪いと赤ちゃんに栄養や酸素が十分に届きません。また、妊婦自身にもトラブルが出やすくなります。
たんぱく尿も妊娠高血圧症候群の症状です。腎臓の機能が低下すると、たんぱくをうまく処理することができず、尿と一緒に排出されます。
たんぱく尿が出ていると、母子ともに栄養不足に陥ってしまいます。結果、胎児の発育不全などにつながることも。
血管が圧迫されることでむくみが出ます。通常であっても、妊娠中はホルモンの関係やお腹の大きさで血管が圧迫され、むくみやすいもの。そのため、生理的に起こるようなむくみは、妊娠高血圧症候群の診断の定義からは外されました。
ただし、寝てもむくみが消えない時やスネを押して凹みが戻らない時は注意が必要です。妊娠高血圧症候群による病的なむくみの場合があります。
自覚症状
自覚症状を感じる人もいます。次のような症状が出た時は、妊娠高血圧症候群の可能性も。血圧や尿検査の健診結果に注目するようにし、気になる時は医師に相談するといいでしょう。
- 強い頭痛
- 動悸
- 足や顔のひどいむくみ
- 急激な体重増
- 目の前がチカチカする
母子へのリスク
妊娠高血圧症候群で起こりうるリスクには、次のようなものがあります。
母体へのリスク
血圧が高くなることで、脳内に血液が一気に流れ込み、むくみや痙攣を起こすことがあります。脳内のむくみがひどいと脳出血を起こし、命に関わる危険も。
肝臓などの内臓が機能しなくなる病気です。腹痛や倦怠感などが症状として現れます。
血流が滞ることで、水分が血管から染み出してしまうことが。その結果、肺や臓器にも水が溜まってしまう病気です。息苦しくなり、胸通や咳などの症状が出ます。
正常な位置にある胎盤が、妊娠途中で剥がれてしまう状態です。出血や下腹部への激痛があり、放っておくと母子の命にも関わるトラブルです。診断の結果、常位胎盤早期剥離が確定となると、すぐに帝王切開となります。
赤ちゃんへのリスク
血流が悪くなることで、赤ちゃんへ酸素や栄養を十分に届けられず、発育が悪くなります。また、未熟児での出産のリスクも高まります。
酸素の不足が続くと赤ちゃんの脳にも酸素が行き届かないため、脳や体に障害が出る可能性があります。
妊娠高血圧症候群を治す為の治療方法は?
血圧の高さや症状により、自宅での治療を進めていく場合と、入院をしてしっかりと治療する場合とがあります。治療の内容は、主に次の4つです。
食事療法
カロリーをコントロールしつつ、たんぱく質や塩分の量を管理していきます。太りすぎや塩分過多による血管への負担を、少しずつ減らしていくためです。
食事を抜いたり極端に食べる量を減らすのではなく、栄養バランスを考えたメニューで三食を規則正しく食べることがポイントとされています。妊婦さんの体調や肥満度により、食事療法の内容はそれぞれ異なります。
自己流の極端なダイエットまがいの食事では、赤ちゃんの発育に十分な栄養すら取れなくなる恐れがあります。医師や助産師さんと連携し、しっかりと栄養管理していくことが大切です。
安静
疲労やストレスを避けて安静に過ごします。血管に負担をかけないためにも、安静にすることはとても大切となります。
自宅だと、家事などでどうしても動いてしまいがちですが、体を休める意識をしっかりと持つことが必要です。症状が重度の場合は、入院をして十分に安静状態が維持できるようにします。
薬物治療
あまりにも高血圧状態が続く時は、降圧薬を使った治療をする場合も。妊娠中でも使える降圧薬を使用するので、医師の指示の元であれば安心です。
妊娠の中止
妊娠高血圧症候群の一番の治療は、実は出産です。なぜなら、この病気は妊娠状態そのものが母体に悪影響を与えているものだから。
臨月前であっても、母子ともに危険な状態であると判断された場合は、緊急帝王切開を行うこともあります。
妊娠高血圧症候群で入院した場合の費用は?
妊娠高血圧症候群で入院となった場合、費用も気になりますね。
実際、トータルでどのくらいの金額になるのかは、治療内容や期間、あるいは医療機関ごとにまちまち。「○○円です」と具体的に断言しにくいのが実情です。
とは言え、健康保険や自治体の制度などを利用することで、それほど高額にならずに済む場合も多いようです。ここでは、妊娠高血圧症候群の入院で適用される制度や保険を紹介します。
健康保険が適用される
妊娠高血圧症候群の治療や入院は、健康保険の適用対象となります。適用されれば、自己負担額は3割です。
実は、妊婦健診や普通分娩での出産については、健康保険は適用されません。「妊娠と出産は病気ではない」というのがその理由です。
ただし、例えば切迫流産や切迫早産、子宮頸管無力症などの医療措置が必要だと判断されるものは、健康保険が適用されます。妊娠高血圧症候群もこれらと同様に「医療措置が必要な症状」と考えられているため、健康保険が適用されるのです。
※ここに注意- 入院中の食事代などは保険適用外となります。
- 病院によっては健康保険の対象とならない治療があることも。
気になる時は、健診を受けている病院に問い合わせてみるといいでしょう。
自治体によっては助成金がある場合も
自治体によっては、妊娠高血圧症候群の入院費用を助成してくれる制度を設けていることも。一部、もしくは全額を助成してくれる自治体もあるため、活用できれば心強いですね。
まずは住んでいる自治体に、制度があるかどうか問い合わせてみるといいでしょう。
※ここに注意- 所得や入院日数、あるいは症状などに一定の条件を設けている自治体が多いようです。
- 入院費用のうち「保険適用されている分」が助成の対象となることが多く、食事代や差額ベッド代は対象外です。
「高額療養費」制度を活用できる場合も
医療費が一定額を超えた場合は、超えた分が健康保険から払い戻される制度があります。この「一定額」とは「1か月の医療費の自己負担額」で、所得によってその額が異なります。
手続き方法や詳しい金額などについては、健康保険組合の窓口か、役所に問い合わせてみてください。
※ここに注意- 「高額療養費」制度の対象は、「同じ月に同じ医療機関に支払った金額」となります。入院期間が2つの月にまたがり、それぞれの月の支払い金額が前述の「一定額」に満たない場合は、対象となりません。
- 「保険適用されている分」がこの制度の対象となるため、食事代や差額ベッド代は対象外となります。
会社勤めしているなら傷病手当金も
もし妊婦さん自身が会社勤めをしているならば、傷病手当金が支給されることも。
傷病手当金とは、けがや病気で会社を長期間休む場合に、健康保険より支給される休業補償です。妊娠高血圧症候群をはじめ、切迫早産や切迫流産での入院も対象となります。
連続して4日以上休んだ場合、4日目以降に日給の3分の2相当の金額が支給されます。詳しい申請方法や支給の条件などは、会社の人事部か健康保険窓口に問い合わせてみてください。
医療保険や共済に加入している場合は
妊娠が分かる前から医療保険や共済に加入している場合は、妊娠高血圧症候群での入院が、保険金・共済金の支払い対象となることがあります。自分の加入している保険や共済窓口に、問い合わせてみるといいでしょう。
※ここに注意- 保険金・共済金の支払いには、細かい条件を設けていることも多いもの。気になる時は、自分の加入している保険・共済の窓口に条件などを詳しく問い合わせしてみてください。
- 妊娠が分かってから新たに医療保険に加入する場合、妊娠にまつわる入院については適用範囲外とする保険もあります。もしくは、給付の条件が厳しくなる場合も多いようです。妊娠後に加入を考えている場合は、詳細を確認しながら検討するといいでしょう。
まとめ
妊娠高血圧症候群は妊娠の負荷によるものなので、出産自体が何よりの治療とも言えます。
出産後に後遺症が残った場合も、数か月すると症状は改善されるとされています。そのため、もし妊娠高血圧症候群と診断された場合でも、あまり悲観せず、しっかりと医師の指示に従うことが大切です。