乳児湿疹を治すにはまず肌を清潔に保つケアが重要となりますが、自宅でケアをおこなっても軽快しないケースも少なくありません。
そのため病院に連れていくべきなのかどうか迷っているお母さんも多いのではないでしょうか?
そこで今回は乳児湿疹の病院での治療法や、使用される治療薬の種類と効能、ステロイド剤についてなどをまとめました。
乳児湿疹は病院でどんな治療をするの?
乳児湿疹を治してあげたいけれど、病院ではどんな治療をされるのか不安…というお母さんのために、一般的な治療法や病院に行くべき症状の目安などを解説します。
病院での治療法
乳児湿疹をきたしている原因は月齢によって異なり、原因と症状に応じた治療が行われます。
生後3ヶ月くらいまで
生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃんにみられる乳児湿疹は、乳児脂漏性湿疹によるものがほとんどです。
これは皮脂の分泌が過剰なことにより、肌に皮脂や汚れが付着して起こる肌トラブルです。症状の程度に差はありますが、大半の赤ちゃんが経験するものでもあります。
この場合は肌に付着した皮脂と汚れを取り除いてあげることが、症状の改善には最も有効です。肌にこびりついた黄色いかさぶた状の皮脂を浮かすためには、ワセリンなどを塗って柔らかくし、そのあと洗い流すという方法が効果的です。
皮脂の分泌量が多い期間は特に肌の清潔を保つようにすれば、多くの場合症状は改善されます。また皮脂の分泌が落ち着いてくる生後3ヶ月頃になると、脂漏性の湿疹は自然と消退することが多いです。
湿疹で炎症がひどい場合などは、抗炎症作用をもつ塗り薬(非ステロイド外用薬やステロイド外用薬)が症状の程度に応じて処方されることもあります。湿疹が細菌感染をきたしている場合は、抗生剤が処方されることもあります。
生後3ヶ月以降
生後3ヶ月以降は皮脂の分泌量が減り、赤ちゃんの肌は乾燥肌に変化します。そのため今度は乾燥による肌トラブルをきたしやすくなり、乾燥性湿疹を生じやすくなります。
乾燥性湿疹にアレルギーが関与したものがアトピー性湿疹ですが、症状だけで双方を区別することは困難で、多くの場合は乾燥性湿疹の症状が持続した場合にアトピー性皮膚炎と診断されるようです。
乾燥性の湿疹に対しては皮膚の保湿が重要であるため、保湿剤が処方されます。脂漏性の湿疹同様に、皮膚の炎症がひどいときや細菌感染を併発している場合には、非ステロイド外用薬やステロイド外用薬、抗生剤配合の外用薬などが処方されます。
そうした薬で治療しているにもかかわらず乾燥性湿疹が軽快しなかったり、良くなったり悪くなったりを繰り返すような場合には、アトピー性皮膚炎が疑われます。
乳児のアトピー性皮膚炎は食物アレルギーが関わっている場合が多いため、血液検査でアレルギーの有無を検査し、必要に応じて母乳や離乳食の指導が行われます。
病院に行く症状の目安
- 湿疹で肌が真っ赤になっている
- かゆがって顔を引っ掻いてばかりいる
- 顔や頭だけでなく、四肢や体幹にも発疹が拡がっている
- 四肢や体幹などの皮膚が全体的にカサカサ、ゴワゴワしている
- 湿疹から汁が出てじゅくじゅくしている、血が出ている
- 湿疹が化膿し、膿が出ている
蕁麻疹が広範囲にみられる場合や、苦しそうに呼吸をしたりゼーゼーと喘鳴を伴うような場合は、乳児湿疹ではなく即時型のアレルギー症状である可能性があります。
即時型のアレルギー症状はときとしてアナフィラキシーをきたし、ショック状態に陥ることもあります。
原因として多いアレルゲンは、乳児の場合は卵、牛乳、小麦などです。こうした症状がみられた場合は診療時間外であっても、至急救急外来を受診しましょう。
何科を受診すればいい?
1ヶ月健診まではなるべく他の子どもに接触させることは避けたほうがよいため、小児科ではなく赤ちゃんが産まれた産婦人科を受診しましょう。1ヶ月健診が終わればかかりつけの小児科を決め、以降はその病院を受診するようにしてください。
皮膚科は大人に対する治療をメインとしており、乳児とは治療法や治療薬などが異なることもありますので、最初に受診する窓口としてはあまりお勧めできません。
小児の場合、皮膚科だけでなく眼科や耳鼻咽喉科などが扱う疾患に対しても、はじめはなるべく小児科を受診するようにしましょう。
乳児湿疹の治療薬の種類とそれぞれの効能は?
乳児湿疹の治療には次のような薬が処方されます。
保湿剤
皮膚が乾燥すると肌のバリア機能が低下し、かゆみや炎症などの症状を引き起こしやすくなります。保湿剤は皮膚の水分蒸発を防ぎ、乾燥による肌トラブルを防ぐ効果があります。そのため乾燥肌のケアには欠かせないものです。
保湿剤の種類によっては毛穴や汗腺を塞いでしまうために、乳児脂漏性湿疹や新生児ニキビなどに使用すると悪化させてしまう可能性があります。
皮脂の分泌が盛んな生後3ヶ月未満では積極的な肌の保湿は必要ないとする意見もありますので、使用の際は医師の指示に従うようにしましょう。
最もポピュラーな保湿剤で、軟膏基剤としても使用されます。
保湿作用に加え、血行を促進させる作用があります。ジェネリック医薬品には「ビーソフテン」「セレロイズ」「エアリート」などがあります。
「ピュアレーン」「ランシノー」などです。赤ちゃんの口に入っても安全なため乳房ケアに使用されることが多いですが、肌の保湿にも使用できます。
亜鉛華軟膏、亜鉛華単軟膏
酸化亜鉛を成分に含む軟膏です。酸化亜鉛には患部の炎症を和らげるという効果があり、浸出液を吸収して患部を乾燥させる効果もあります。
おだやかな消炎作用のため赤ちゃんにも処方されることが多く、滲出液がみられるようなジュクジュクとした湿疹や蒸れによって引き起こされた汗疹、おむつかぶれなどに使用されます。
ただし患部を乾燥させるという特徴から、乾燥させることで悪化してしまうような湿疹や創部には適さないとされています。
亜鉛華単軟膏と亜鉛華軟膏の薬剤成分は同じですが、軟膏基剤の成分が異なります。
軟膏基剤はワセリン系基剤で吸水性が高く、滲出液が多い患部や乾燥させたいケースなどにより適しています。
亜鉛華単軟膏の基剤にはナタネ油とサラシミツロウという天然由来の成分が使われています。そのため肌に対してより刺激が少なく、赤ちゃんや敏感肌の人に適した軟膏です。
患部の保護作用が高く、患部をあまり乾燥させたくないケースで選択されることが多いです。
非ステロイド系抗炎症剤
非ステロイド系抗炎症剤はステロイドではない抗炎症薬の総称で、NSAIDsとも呼ばれています。皮膚の発赤やかゆみなどの炎症症状をやわらげる効能があり、ステロイドよりは作用がおだやかで、副作用も少ないほうです。
比較的症状が軽いケースや、ステロイド薬を使いにくい顔に使用されることが多いでしょう。
- ウフェナマート(コンベック、フエナゾール)
- イブプロフェンピコノール(スタデルム、ベシカム)
- ジメチルイソプロピルアズレン(アズノール軟膏)
- グリチルレチン酸(デルマクリン、ハイデルマートクリーム) など
ステロイド薬
ステロイド薬には優れた抗炎症作用があり、乳児湿疹に対しても処方れることが多い薬です。詳しくは、後述の「乳児湿疹にステロイド剤を使っても大丈夫?」をご覧ください。
抗アレルギー薬
赤ちゃんの乾燥性湿疹がアトピー性皮膚炎によるものである場合、抗アレルギー薬の塗り薬や飲み薬を使用することで症状が改善することがあります。
- レスタミンコーワ
- ザジテン
- ペリアクチン など
抗生剤
ステロイド外用薬は皮膚の炎症を抑える一方で、皮膚の免疫を抑制してしまい細菌を繁殖させてしまうことが懸念されます。そのため滲出液がみられるような細菌感染を疑わせるケースでは、抗生剤が配合された塗り薬が処方されることがあります。
抗真菌薬
乳児のカンジダ症(乳児寄生菌性紅斑)は真菌であるカンジダによって引き起こされるため、抗真菌薬が有効です。乳児寄生菌性紅斑は陰部や後頸部などの蒸れやすい部位に生じやすいものです。
- ニゾラール
- ラミシール など
乳児湿疹にステロイド剤を使っても大丈夫?
乳児湿疹にも処方されることの多いステロイド剤ですが、ステロイド剤の副作用が気がかりで、赤ちゃんに使ってもいいものかどうか悩んでいるお母さんも多いのではないでしょうか?
ステロイドは確かに副作用もありますが、適切に使用すれば大変心強い味方となってくれる薬です。ステロイドの基本知識をおさえ、赤ちゃんのためにも上手に使っていきましょう。
ステロイド剤とは?
ステロイド剤について簡単に説明します。
ステロイドホルモンは副腎皮質ホルモンともいい、私たちの体の中で常に一定量つくり出されているものです。副腎皮質ホルモンは体の炎症反応を抑制する働きのほか、免疫バランスを保つといった重要な役割を担い、健康の維持にはなくてはならない大切なホルモンです。
この副腎皮質ホルモンを人工的につくったものがステロイド薬です。ステロイド薬には主に抗炎症作用と、免疫抑制作用があります。
ステロイド薬の効果は即効性で、使用すれば優れた抗炎症作用によって速やかに炎症が治まります。また免疫抑制作用によって過剰なアレルギー反応を抑え、アレルギーによるさまざまな症状を軽快する効果があります。
ステロイドは薬効の強さによって、「5群:weak(弱い)」「4群:medium(中程度)」「3群:strong(強力)」「2群:very strong(非常に強力)」「1群:Strongest(最強)」と5段階のランクにわけられています。
年齢や症状の程度によって適したランクを医師が判断し、処方します。症状の程度にもよりますが、乳幼児に対しては一般的に弱いものが選択されることが多いです。
副作用はどんなものがある?
ステロイド薬にはムーンフェイスや糖尿病、骨粗鬆症、免疫抑制などの副作用があるとされていますが、これらの副作用はステロイドを長期間にわたって大量に使用した場合に生じるものであり、外用薬ではまず生じることはありません。
ステロイド外用薬で生じる可能性のある副作用は次の通りです。
アレルギー反応を抑えるのに有効な免疫抑制作用ですが、正常な免疫反応も抑えてしまうというデメリットがあります。ステロイド外用薬では、皮膚に備わる免疫機能を抑えてしまうことが問題になります。
皮膚の免疫機能が落ちると、細菌によって化膿しやすくなったり、ヘルペス感染症や乳児のカンジダ症などのリスクを高めます。これらの疾患でステロイド外用薬を使用すると、症状が悪化してしまう可能性もあります。
皮膚は常に新たな細胞が造成されることによってつくりだされているものですが、ステロイド外用薬を塗り続けると、皮膚細胞の増殖を抑えてしまうことがわかっています。
皮膚細胞の増生が抑制されると皮膚が薄くなり、皮下にある毛細血管が透過されて浮き上がって見えるようになります。この症状は特に頬、胸部、肘、指先などで生じやすいとされています。
ステロイドは使うべき?
ステロイドと聞くとまず副作用が懸念されがちですが、重い副作用が現れるのは長期間に渡って注射や内服薬を大量に使用した場合であり、外用薬程度ではまず心配は要りません。
皮膚が薄くなるといった副作用も、用法や用量を守って適切に使用すれば、そう心配することはないといえます。
ステロイド薬の副作用を恐れるあまり、必要な場面で使用せず炎症症状を長引かせることは、赤ちゃんにつらい思いをさせるばかりでなく将来的な問題にも繋がりかねません。
というのも、乳児湿疹で炎症をきたしたままにしておくとさまざまなアレルゲンに感作され、将来的にアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などのアレルギー疾患を生じやすいことが近年わかってきたからです。
乳児湿疹は月齢の経過とともに治まっていくものではありますが、だからといってそのままにせず、炎症症状がある場合は早めに炎症を抑えてあげることが大切です。
ステロイドの上手な使い方
- 医師の指示通りの用法、用量を守りましょう
- 他人(家族など)に処方されたものを使用するのはやめましょう
- ステロイドを使用しても症状が改善しなかったり、再燃したりする場合は医師に相談しましょう
まとめ
病院に行けば症状に合った薬を処方してもらえますが、その薬が必ずしも症状を軽快させてくれるとは言い切れません。薬を使用しても症状が軽快しない場合や、一度治まった症状が再びぶり返してくるといった場合には、それ以上ひどくならないうちに再診しましょう。
薬や治療についてわからないことや不安なことがあれば、そのつど主治医や看護師、薬剤師などに相談してください。そのためにも、赤ちゃんのうちからかかりつけの小児科を決めておくことが大切です。