ロタウイルスに感染すると、下痢や嘔吐、発熱といった症状がみられます。
検査の結果ロタウイルス感染症と診断された場合、病院ではどのような治療が行われるのでしょうか?
病院での治療についてや、自宅での過ごし方などを解説します。
ロタウイルス感染症はどんな治療をするの?
ロタウイルスに効く薬や、特別な治療法はありません。そのため病院でロタウイルス感染症と診断されても、治療の基本は下痢や嘔吐などの症状に対する対症療法のみで、脱水の予防あるいは対処などが主となります。
嘔吐がひどく経口的に水分が摂取できないときは、点滴によって水分と電解質を補う治療が行われます。大人よりも子ども(特に乳幼児)が脱水となりやすいため、水分が摂れないときは早めの受診が必要です。
処方される薬の種類
ロタウイルス感染症と診断されたときに処方される薬は、基本的には腸の調子を整える整腸剤と、発熱時に頓用として使用する解熱剤(解熱鎮痛薬)のみです。細菌感染を合併していたり細菌性胃腸炎が疑われるときには、抗生剤が処方されることもあります。
整腸剤
腸内には善玉菌や悪玉菌など数多くの常在菌が存在しますが、下痢のときはそれらの菌の腸内バランスが崩れ、悪玉菌優位の状態になっています。そこで整腸剤を服用し、乳酸菌の仲間である善玉菌を腸内に補うことで、下痢の症状を和らげることができます。
- 酪酸菌(ミヤBM)
- ラクトミン(ビオフェルミン)
- 酪酸菌+ラクトミン(ビオスリー)
- ビフィズス菌(ラックビー)
- 耐性乳酸菌(レベニン)など
解熱鎮痛剤
発熱が続くと汗で水分が失われるため脱水をきたしやすく、また体力の消耗にも繋がるため、必要時には頓用として解熱鎮痛剤が処方されます。
頓用として処方される解熱鎮痛剤は一般的に座薬が多いのですが、下痢の症状がある場合は座薬では十分な効果が得られませんので、代わりに内服薬が用いられます。
小児ではアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用は禁忌で、基本的には最も安全性の高いアセトアミノフェン(商品名:カロナール)が処方されます。くれぐれも家族が処方された薬を使用したり、大人用の市販薬を使用しないよう、注意が必要です。
抗生剤
細菌による感染症を合併しているときには、抗生剤が処方されることがあります。またロタウイルスによる腸炎と断定できず、細菌性腸炎の可能性があるときには、細菌性腸炎に効く抗生剤(ホスミシンなど)が処方されます。
制吐剤(吐き気止め)
嘔吐や吐き気がひどい場合、制吐剤(プリンペランやナウゼリン)が処方されることがあります。また吐き気止めの効能がある五苓散という漢方薬が処方されることもあります。
入院になることも
月齢の低い乳幼児では脱水をきたしやすいため、病院を受診した際に症状が重くなくても、ロタウイルスが検出されれば念のために入院となることがあります。
また症状が重く脱水が懸念される場合や、脱水症状がみられる場合には入院となる可能性が高く、けいれんなどの脳症徴候がある重症例では直ちに入院加療が必要となります。
脱水症状やけいれんなどの症状がみられた場合は、夜中であっても病院を受診したほうが良いでしょう。症状によって入院期間は異なりますが、平均すると6.5日程度です。
ロタウイルスに感染したときの過ごし方は?
しっかりと水分補給を
ロタウイルス感染症を発症すると、本来は腸で吸収されるはずの水分が腸が働かなくなることにより吸収されなくなるため、水のような下痢となることが少なくありません。
体の水分が失われた結果脱水症となってしまいますので、特に脱水をきたしやすい乳児ではしっかりと水分補給を心がけてあげましょう。飲んでもすぐに吐いてしまう場合は無理に飲ませず絶飲食とし、早めに医療機関を受診してください。
最も適しているのは経口補水液
経口補水液は、体から大量の水分が失われたときを想定して作られた、脱水予防・改善のための飲料です。小腸で吸収されやすい浸透圧に作られているため、最も効率的に水分や電解質を摂ることができます。
風邪で激しい発汗があるときや、胃腸炎による下痢や嘔吐などが続くときに適していると言えます。
大塚製薬から「OS-1」が市販されていて、薬局やドラッグストアなどで購入することができます。また、次の材料があれば家庭で作ることも可能です。
- 水:1リットル
- 砂糖:40グラム(大さじ4と1/2)
- 塩:3グラム(小さじ1/2)
レモン汁があれば大さじ1杯ほど入れると飲みやすい味になります。
砂糖の代わりにハチミツを入れても良いですが(その場合は砂糖よりも分量を控えめに)、ハチミツにはボツリヌス菌の芽胞が含まれていることがあるため、1歳未満の乳児には与えてはいけません。長持ちはしませんのでその日のうちに飲み切るか、余った分は破棄しましょう。
スポーツドリンクは糖分が多い
スポーツドリンク(ポカリスエットやアクエリアスなど)もまた経口補水液同様、水・塩分・糖分で作られている飲料ですが、経口補水液よりも糖分の量が多めです。そのため甘く飲みやすい味なのですが、大量に飲むと糖分過多となってしまいます。
こちらはスポーツのあとや軽い風邪などのときに、適量を飲むのが適していると言えるでしょう。体の水分と電解質が多量に失われる胃腸炎では、塩分などのミネラルが不十分です。
ジュース・スープなど欲しがるものを
お子さんが欲しがるようであれば、ジュース(リンゴジュースがベスト)やお茶、スープ、薄めたお味噌汁などを適度に与えても構いません。緑茶に含まれるカテキンには、ロタウイルスの増殖を防ぐ効果があることがわかっています。
柑橘類のジュースはビタミンも含まれているため良さそうに思えますが、腸管に刺激を与えて下痢を悪化させてしまう恐れがあるため避けたほうが無難です。
母乳・人工ミルクは欲しがれば与えてもOK
母乳やミルクはお子さんが欲しがればいつも通り与えても大丈夫です。特に母乳は消化が良く、免疫効果も期待できますので、飲めるようであれば積極的に授乳しましょう。
人工ミルクは母乳よりも消化管に負担がかかりますが、今のミルクはより母乳に近いものとなっているため、薄めたりする必要はないと言われています。
急性期には食事を摂らない
下痢や嘔吐がみられるときは、胃腸が弱っている状態です。そんなときに食事を摂ると、弱った胃腸を無理矢理働かせてしまうことになるため、回復が遅れます。
嘔吐や下痢の症状がひどい間の急性期は、無理に食事を摂らず水分だけを飲むようにして、胃腸をできるだけ休ませてあげましょう。
小児の場合栄養が不足することに対して不安があるかもしれませんが、短期間の絶食で一時的に痩せるようなことはあっても、その後の成長には差し支えありません。
症状が治まってきたら摂る食事
お腹の調子が回復に向かってきたら、消化に良い食べ物を少量から摂るようにしましょう。この時期に食べてはいけないものを摂ると症状がぶり返す恐れもありますので、注意が必要です。
お腹に優しい食べ物
- お粥、雑炊、柔らかいご飯
- うどん、にゅうめんなどの麺類
- スープ、ポタージュ
- 食パン(耳の部分を除く)、蒸しパン
- 卵(半熟卵、茶碗蒸し、卵豆腐など)
- じゃがいも、長芋、里芋
- 豆腐
- ささみや鶏ひき肉
- 白身魚、すり身
- 大根、カブ
- 青菜(ほうれん草、小松菜、チンゲン菜などの葉の部分)
- キャベツ
- りんご、バナナなどの果物
- ヨーグルト
- ゼリー
- カステラ、ビスケット、ボーロなどのお菓子
避けたほうが良い食べ物
- 脂分の多いもの
- 香辛料が含まれるもの
- カフェインの含まれる飲み物(コーヒー、栄養ドリンク)
- 冷たい牛乳、炭酸飲料
- 繊維質の多い野菜(ごぼう、さつまいも、たけのこ、セロリ)
- 冷たい飲み物や食べ物(アイスクリーム、かき氷)
- みかんなどの柑橘類、ブドウ、柿、イチゴ、梨などの果物
- ラーメン、そばなどの麺類
- 納豆
- スナック菓子、ジャンクフード、カップラーメン
- ケーキ、あんこ、チョコレート、プリン
離乳食の場合
離乳食を進めている赤ちゃんの場合、一旦初期のドロドロとした形状に戻して様子を見ましょう。
少しずつ与えてみて、翌日まで症状の悪化がないようなら中期、後期の形状へと進めていきます。その際肉類などは控え、お粥やうどんなどの炭水化物からはじめるようにしてください。
胃腸炎の回復期における食事は、消化に良いものから少しずつ、がポイントです。
発熱時はできるだけクーリングで対処
発熱は感染症を悪化させないために働く体の防御反応であり、むやみに下げてよいものではありません。
体温が上がることによって、体の免疫力が高まり、体の中でウイルスが増殖するのを抑制します。そのため解熱剤を使用して熱を下げると、ウイルスと戦おうとする体の働きを妨げてしまい、かえって回復を遅らせてしまうことがあります。
熱が高いからといって脳に悪い影響を及ぼすことはありませんので、心配し過ぎる必要はありません。
解熱剤を使用する目安
解熱剤の使用は体温が38.5℃以上であること、前回の使用から8時間以上経過していることを前提に、次のようなときを目安としましょう。
- 熱の所為で機嫌が悪く泣いてばかりいる
- 食事はもちろん水分も摂ろうとしない
- 高熱でつらそうにしていて眠れない
- 頭や体幹だけでなく四肢末端まで熱い、顔が赤い、汗をかいている
熱が38.5℃以上であっても、水分が摂れて眠れているときは使う必要性は低いです。また四肢末端が冷たいときはこれから熱がさらに上がる可能性があるため、解熱剤の効果はあまり期待できません。
全身が熱くなり、汗をかき始めたときが熱が上がりきったときですので、そのタイミングで解熱剤を使用するのが最も効果的です。
効果的なクーリングの方法
クーリングも解熱剤同様、熱が上がりきったときに使用するようにしましょう。手足が冷たいとき(熱が上がっている最中)は寒いはずですので身体を冷やしたりせず、布団を多めにかけたり、1枚多く着せたりして保温に努めるようにします。
冷やす場所は太い動脈があるわきの下、そけい部(脚の付け根)、首筋などです。発熱の際は額を冷やすイメージが強いかもしれませんが、額を冷やすことにあまり意味はありません。
わきの下は要らなくなったタイツに保冷剤を入れ、たすきを掛けるようにして固定したり、市販されているたすき掛けタイプのクーリンググッズを使用すると便利です。
そけい部は体に密着するスパッツなどに保冷剤を入れて固定すると、冷やしたい場所からずれにくいためお勧めです。クーリングを嫌がる場合は眠っている間に保冷剤をそっと忍ばせたり、好きなキャラクターもののシールを貼ったりしてみましょう。
下痢止めは使用しない
ロペミンなどの止痢薬(下痢止め)は腸管の蠕動運動を抑制し、下痢を止める効果があります。しかしロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎や、細菌性胃腸炎では、止痢薬の使用は推奨されません。
腸内で増殖したウイルスは、下痢とともに体外へと排出されます。下痢止めを使用すると大量のウイルスを体内に留めておくことになるため、症状を長引かせたり悪化させたりする可能性も否定できず、余程のことがない限り処方されません。
感染性胃腸炎の治し方の基本は、脱水防止のために水分を摂取しながら、下痢が自然と治まるのを待つことです。下痢止めには正露丸などの市販薬もありますが、ロタウイルス感染症をはじめ、ウイルスや細菌による胃腸炎が疑われる場合には、くれぐれも服用しないようにしましょう。
ロタウイルスに感染したときの過ごし方Q&A
便が出ないときは?
下痢が止まったと安心したのも束の間、今度は全く便が出なくなったときは、麻痺性イレウスをきたしている可能性があります。麻痺性イレウスとは、腸の蠕動運動が止まってしまうために、腸管内の内容物が停滞してしまうものをいいます。
何日も便秘が続く、排ガスがない、嘔吐がある、腹部が張っているなどの症状がみられるときは、医療機関を受診するようにしましょう。
入浴はいつから?
下痢があっても機嫌が悪くなく、熱も高くなければお風呂に入っても差し支えありません。下痢によってお尻かぶれが生じやすくなりますので、清潔を保ってあげるようにしましょう。
ロタウイルスの感染力は非常に強く、たった数十個のウイルスでも感染をきたすことが知られています。そのため感染者が浸かった湯船のお湯は、なるべく入れ替えるようにした方がよいでしょう。
大人であれば既に抗体を持っているため不顕性感染(感染しても症状が出ないこと)となる可能性が高いですが、乳幼児の兄弟姉妹がいる場合は要注意です。
外出はいつから?
症状が激しい急性期は安静が必要となりますが、回復期に入り、活気があり機嫌が良ければ外出しても構いません。短時間の散歩や外遊びなどをして、気分転換を図ってあげるとよいでしょう。
ただし症状が治まった後もウイルスの排出は続いていますので、感染防止のためにも公園や児童館など他の児に接触する可能性のある場所は避けましょう。
保育園や学校は何日休む?
ロタウイルスの出席停止期間には明確な規定はありません。文部科学省の「学校保健安全法」では、流行性嘔吐下痢症(ロタウイルスやノロウイルス)は第3種の「条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる疾患」に該当し、出席停止の期間については「下痢、嘔吐症状の回復後、全身状態がよい者は登校可能」と定められています。
ただしロタウイルス感染症は症状が回復しても数日間は便中にウイルスが排出され続けますので、その点も考慮した上で登園・登校先と話し合い、いつから出席するかを決定しましょう。
保育園や幼稚園、学校などは給食がありますので、普段の食事が摂れるようになっていることも重要です。
まとめ
ロタウイルス感染症では下痢や嘔吐、発熱などの症状が現れるため、脱水をきたしやすい乳児では特に注意が必要です。
月齢が低い場合や、脱水症状がみられる場合、脳症の徴候がある場合などは早めの受診が肝心となります。
ロタウイルス感染症には特効薬はなく、脱水に注意しながら症状が治まるのを待つしかありません。薬の使い方や食事の内容などに気をつけて、少しでも早くよくなるように努めましょう。
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参考リンク