ロタウイルスとは胃腸炎をきたすウイルスで、5歳までにほとんどの人が感染します。
初感染時に最も重い症状が現れるのが特徴であるため、ロタウイルスによる感染性胃腸炎は小児に多くみられる疾患です。
ロタウイルス感染症の主な症状をはじめ、注意すべき脱水の徴候や、生じる可能性のある合併症などについて解説します。
ロタウイルス感染症でみられる症状は?
ロタウイルスに感染すると、1~3日の潜伏期間を経たのち、下痢や嘔吐、発熱といった症状が現れます。各症状の詳細や経過は、以下の通りです。
主な症状
ロタウイルス感染性胃腸炎では、白色~黄白色(クリーム色)の便がみられることがあり、その特徴的な白色水様便は「米のとぎ汁様(rice water stool)」と形容されます。
通常便が茶色い色をしているのは胆汁によるものですが、ロタウイルス感染症ではウイルスの影響で一時的に胆汁が腸へと流出しない状態となることがあるため、便色が白っぽくなると言われています。
ロタウイルス感染症にかかると必ずしも白い便がみられるわけではなく、約半数で認められる症状です。軽症の場合は白色便までいかず、普段より色が薄い(黄白色便)程度の変化で治まっていくことが多いです。消化不良によって、緑色の便が見られることもあります。
ロタウイルス感染性胃腸炎では9割を超えるほとんどの症例に下痢(水様便~泥状便)の症状がみられ、8割近い症例に水様便が認められます。ロタウイルスによる下痢では色の他に臭いも特徴的で、乳製品が腐ったような酸っぱい臭いがします。
下痢の回数は平均して1日5回程度ですが、中には10回以上みられるケースもあります。下痢は最も長く続く症状で、1週間ほど続くことも少なくありません。
ウイルスは主に吐物や糞便の中に含まれる形で排出されますが、下痢便1グラム中には1000億から1兆個ものロタウイルスが含まれ、その排出量は実にノロウイルスの100万倍です。
嘔吐の症状も大半でみられますが、同じく感染性胃腸炎をきたすノロウイルスと比較すると、症状の程度は軽いことが多いです。一般に嘔吐の症状は発症より1~3日程度で軽快します。
ロタウイルス感染症では8割以上の症例で発熱がみられ、38度を超える高熱となることもあります。多くの場合、2日以内に解熱します。
脱水症状
激しい下痢、嘔吐、発熱などの症状により、体内の水分が急激に失われるため脱水症をきたすことがあります。特に1歳未満の乳児は身体全体に占める水分の割合が高く(大人が60%に対し、乳児では70%)、腎機能も未熟であるため、脱水をきたしやすいと言えます。
重症の脱水症の場合、腎前性腎不全や腎後性腎不全、高尿酸血症、尿酸結石などをきたす可能性もあります。
赤ちゃんは言葉で訴えることができないため、周囲の大人が注意して観察する必要があります。次のような症状がみられる場合は脱水をきたしている可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。
軽症から中等度では、落ち着きがない、不機嫌、活気がない、ずっと眠っているといった症状がみられます。重症になると電解質異常やショックをきたし、ぐったりして意識がはっきりしなかったり、チアノーゼ(唇などが紫色になる症状)がみられることもあります。
発熱して頭や体が熱いにもかかわらず、手足が冷たいといった症状がみられることがあります。
脱水が進むと脈が速く弱くなり、早くて深い呼吸をするようになります。
弾力性が失われ、つまんだり押したりしたとき、むくみがあるときのように元に戻るのに時間がかかるようになります。
湿っている状態が正常である粘膜が、乾燥します。
大泉門とは乳児にみられる頭蓋骨のすき間のことをいい、前髪の生え際の少し上にある柔らかい部分です。通常大泉門は少しくぼんだ状態ですが、脱水になるとさらに陥没が目立つようになります。
尿の量が減少し、濃縮尿(色の濃い尿)がみられるようになります。さらに脱水が進むと、ほとんど尿が出なくなります。
低血糖
嘔吐や下痢の症状が激しい場合、脱水に加えて低血糖をきたすことがあります。低血糖になると、ぼんやりとして呼びかけに反応しなくなったり、眠りがちになったりといった症状が現れ、進行すると意識の消失に至り、最悪命にもかかわります。
麻痺性イレウス
ロタウイルス感染性胃腸炎では、麻痺性イレウスをきたすことがあります。麻痺性イレウス(麻痺性腸閉塞)とは、腸管が正常に動かなくなるものをいいます。
腸は本来蠕動(ぜんどう)運動によって腸管中の内容物を運んでいますが、その蠕動運動が止まってしまうと内容物が腸の中に停滞してしまうため、お腹が張る、ガスが出ない、便秘、腹痛、嘔吐などの症状をきたします。
熱性けいれん
熱の上がりぎわにけいれんをきたすものを熱性けいれんと言い、ロタウイルス感染症でもみられることがあります。けいれん後に熱が上がった、あるいは熱が出はじめてすぐけいれんが起きた場合は、熱性けいれんである可能性が高いです。
脳炎・脳症
ロタウイルス感染症では、脳炎や脳症の合併症を生じる可能性があります。ロタウイルスによる脳炎(脳症)は、インフルエンザ、突発性発疹に次ぐ3番目に多くみられるものです。
主な症状は無熱性けいれん(熱がない状態で生じるけいれん)で、群発する(何度も繰り返す)のが特徴です。ウイルスによる感染性胃腸炎にみられることのある症状ですが、ロタウイルスでは比較的頻度が高いとされています。ロタウイルスによる脳炎・脳症には、予後が良好なものと予後不良なものが存在します。
けいれんや意識障害はあるものの、その他の症状が伴わないものは概ね予後が良好な傾向にあります。
多くの場合、1回のけいれんは5分以内で治まり、けいれんが治まれば意識も普段通りに戻ります。また一過性(一時的な症状)で、適切な治療を受ければ後遺症を残す可能性も低いとされています。
小脳炎を伴う脳炎・脳症では後遺症を残す症例が多く、予後不良な傾向にあります。
小脳炎を疑わせる小脳症状としては、運動失調(歩き方がおかしい、ふらつく)、筋緊張低下(手足に力が入らない)、構音障害(発音が不明瞭になる)、眼振(意思とは無関係に眼球が動く)などが代表的なものとして挙げられます。
その他の感染症
ロタウイルスへの感染で身体の免疫力が落ちてしまうことで、その他の細菌感染を合併してしまうことがあります。
熱が下がらなかったり、咳や喉の痛み、鼻汁といった上気道感染症状が出現したりした場合には、何らかの感染症を合併している可能性が高いと言えるでしょう。尿路感染症も、体力が落ちたときに生じやすい代表的な感染症の一つです。
大人でみられる症状
通常成人では既にロタウイルスに感染しており免疫を獲得していますので、健康な大人であれば感染しても倦怠感や頭痛、軽い腹痛、吐き気、胃痛などの、軽度の症状で済むことが多いです。
しかし何らかの原因で抵抗力が落ちているときや、免疫力の低い高齢者では、重い胃腸炎症状を発症することがあります。
ロタウイルス感染症が疑われた場合の検査は?
迅速診断検査
症状や周囲の感染状況などからロタウイルス感染症が疑われた場合、確定診断のための検査が行われます。現在最も多く行われているのは、イムノクロマト法という迅速診断検査で、健康保険が適応されます。
採取した便を、専用の検査キットを用いて検査するもので、およそ15分程度でロタウイルスの感染の有無がわかります。
ただしこの検査方法はA群ロタウイルスに対する抗体を使用しているため、C群ロタウイルスは検出できず、感染していても陰性となることがあります。我が国で販売されている検査キットには次のようなものがあります。
- ラピッドテスタロタアデノ(積水メディカル)
- ディップスティック「栄研」ロタ(栄研化学)
- イムノカードSTロタウイルス(TFB)
血液検査
高熱が持続したりしてその他の感染症が疑われる場合、血液検査が行われることがあります。細菌による感染症を併発している場合には、CRPや白血球数が高値となります。
また脱水症が疑われる場合には、脱水時に血液が濃縮されることで高値となるヘモグロビンやアルブミンをはじめ、腎機能の低下により上昇するクレアチニンや尿素窒素などの値を調べます。
尿検査
尿路感染症の合併や、脱水症が疑われる場合に尿検査が行われます。脱水状態では尿量が減少して尿の色が濃くなり、尿比重の上昇、尿ケトン体の増加などがみられます。
腹部レントゲン検査
麻痺性イレウスが疑われる場合、腹部のレントゲン(腹部X線検査)を撮影し、腸管の状態を診ることがあります。
まとめ
乳幼児のロタウイルス感染症で最も注意すべきは、体内の水分が急激に失われることによる脱水症です。激しい下痢や嘔吐が続くことに加えて発熱もみられることが多いため、特に乳児では容易に脱水をきたします。
乳児は自分で訴えることができないため、胃腸炎をきたした際には脱水の徴候がみられないか注意して観察しましょう。
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参考リンク
あかちゃんとこどものクリニック|ロタウイルス感染症の どこが怖いのか?