ロタウイルスは非常に感染力が強いウイルスであるため、1人が感染すると家族全員に二次感染をきたす恐れがあります。
成人であれば既に何度も感染していて抗体を持っているため大した症状は現れませんが、乳幼児の兄弟姉妹がいる場合は要注意です。
今回は感染を拡げないための適切な対処法や、ロタウイルス感染症の効果的な予防法、ウイルスに汚染されたものの消毒方法など、感染防止に役立つ知識をまとめました。
手洗いの徹底
糞口感染(感染者の便に含まれるウイルスが口から入ることで感染するもの)の感染防止の基本は手洗いの徹底です。オムツ交換のあとや調理の前など、石けんでしっかりと手を洗いましょう。
爪の間、指と指の間、手首などは洗い残しやすい部位ですので、特に意識して洗うようにしましょう。
アルコール消毒は有効
ロタウイルスはエンベロープ(一部のウイルスにみられる膜状のもの)を持たない構造の、ノンエンベロープウイルスです。ノンエンベロープウイルスはアルコールに耐性を持つという特徴があり、ロタウイルスの他にはノロウイルスやポリオウイルス、アデノウイルスなどが該当します。
これらのウイルスは口から入って腸管で増殖するため、胃酸や腸内の胆汁酸に抵抗できるよう、酸で壊れるエンベロープを持たない構造をしています。
ただしアルコール消毒が全く効かないわけではなく、エタノール溶液などによる手指消毒はある程度有効です。エタノールによる消毒を30秒間行った場合、ロタウイルスの不活化率は99.99%を超えるという報告もあります。
よって感染を防ぐためには、石けんを使用して丁寧に洗ったあと、エタノール製品で手指の消毒を行うのが最も効果的な方法です。
紙オムツの処理方法
感染者の吐瀉物(としゃぶつ)や排泄物には多量のロタウイルスが含まれ、感染源となります。ロタウイルス感染症の赤ちゃんのオムツを交換したママの手にはウイルスが付着しますが、その後しっかり手洗いを行なっても、アルコール耐性の強いロタウイルスを全て落としきることは困難です。
その手で家の中のものに触れると、ウイルスを家中にばら撒くことになります。たった数十個のウイルスであっても感染が成立するロタウイルスですので、こうなると家族全員が容易に感染してしまいます。
またロタウイルスは症状が治まったあとも数日間は便中にウイルスが排出され続けますので、一見完治したように見えても継続した感染予防対策が必要です。
オムツ交換の際は手袋を
オムツを交換する際は手袋を装着し、手に排泄物を直接付着させないように注意しましょう。手袋はディスポ製品(使い捨てのもの)を使用し、できれば2枚重ねとすることが望ましいです。
オムツ交換後は手袋の表面に触れないよう注意しながら外し、速やかにビニール袋に入れ、袋の口を縛り密閉して廃棄します。その後、石けんを使った手洗いを2度念入りに行い、エタノールによる手指消毒も忘れないようにしましょう。
布オムツではなく紙オムツを
排泄物には最も多くのウイルスが含まれますので、布オムツの場合は洗濯などの際にウイルスを撒き散らしてしまう危険性が高まります。普段布オムツを使用していたとしても、感染時及び治癒後しばらくは紙オムツにして処理した方がよいでしょう。
嘔吐物の処理方法
床などの嘔吐物を処理するときは、使い捨てのガウン、靴カバーなどを装着し、自身に汚物が付着しないようにします。靴カバーはビニール袋でも代用が可能です。
広範囲の清掃を
ウイルスは広範囲に飛散しますので、汚物だけでなく、その周囲の床や壁、家具なども広く掃除するようにします。また汚物に近づいた人はウイルスを媒介させてしまう可能性がありますので、処理をする人以外は近づかないようにすることも大切です。
乾燥すると空気感染の可能性も
吐物が乾燥してくると、空気中にウイルスが舞い上がり、空気感染をきたすことがあります。過去には実際に、小学校で吐物を処理した雑巾を水洗いして干しておいたところ、多数の生徒が感染をきたしたという事例が報告されています。
床などに吐いてしまった場合は、できるだけ速やかに処理しましょう。その際は十分な換気を行うことや、処理者がマスクを装着することも重要です。
家具や家庭用品の消毒方法
ロタウイルスに最も有効な消毒液は、次亜塩素酸ナトリウムです。そのまま使用できる滅菌・除菌製品もありますが、どの家庭でも常備してあることの多いキッチンハイターなどの家庭用塩素系漂白剤で作ることができます。
消毒するものによって適切な濃度が異なりますので、それぞれ下記の通りの分量で希釈してください。尚、原液の濃度が5~6%の漂白剤を想定した値です。
汚物が直接付着した部分
「水1リットル」に対し「原液33ml」で、濃度0.1%(1000ppm)以上の希釈液をつくります。汚物が付着した床、トイレなどはこの濃度の消毒液を使用し、しっかりと濡れ拭きしましょう。
手で触れる部分
「水1リットル」に対し「原液3.3ml」で、濃度0.02%(200pm)の希釈液となります。手で触れる機会の多いトイレのレバー、ドアノブ、スイッチ、手すり、おもちゃ、調理器具などはこの濃度の消毒液を使用し、濡れぶきか漬け洗いをしましょう。
ロタウイルスは85℃の環境下で1分間経過すると死滅しますので、可能であれば熱湯で消毒するのも効果的です。
消毒する際の注意点
- 塩素系漂白剤は酸性のものと混ぜ合わせると有毒ガスが発生します。絶対に混ぜないようにしましょう。
- 消毒液を扱う際は、必ずビニール手袋を着用して作業してください。皮膚に消毒液が付いた場合は、すぐに水で洗い流しましょう。
- 十分な消毒効果を得るため、使用期限は調整した日から3ヶ月程度としてください。
- 万が一消毒液が目に入った場合、速やかに水で洗い流したあと、眼科を受診してください。
- ものによっては変色、脱色をきたすことがありますので注意しましょう。
- 希釈液を入れる容器には消毒液である旨を分かりやすく記載し、小児の手の届かないところに保管しましょう。
- 万が一小児が消毒液を誤飲した場合は、水、または牛乳をコップ1~2杯程度飲ませ、飲んだものを持参して病院を受診してください。無理に吐き出させようとすると嘔吐物が気管に入り、誤嚥性肺炎や窒息の原因となるため大変危険です。また酸味のあるジュースや炭酸飲料は体内で熱やガスが発生する危険性があるため、絶対に飲ませてはいけません。
- 1%:ミルトン、ミルクポン、ピュリファン
- 5~6%:ハイター、ブリーチ、ジアノック
- 6%:ピューラックス、テキサント など
塩化ベンザルコニウム(逆性石鹸・クレゾールなど)はグラム陽性菌やグラム陰性菌、真菌(カビ)などに有効な消毒薬です。しかしロタウイルスを含むウイルス全般には効果がないため、注意しましょう。
汚染された衣類の洗濯方法
- 汚染された衣類をそのまま洗濯機に入れると洗濯機も汚染されてしまうため、あらかじめ下洗いと消毒が必要です。まずは衣類をビニール袋に入れ、洗剤を入れた水で十分にもみ洗いします。
- 水を捨て、今度は希釈した消毒液(濃度0.02%(200pm)の希釈液)をビニール袋に入れて消毒します。この際色のついた布は漂白剤で色落ちしますので注意してください。
- 消毒が終わったら、他の洗濯物とは別にして洗濯機で洗濯します。高温の乾燥機で乾燥すると、さらに殺菌効果は高まります。
洗濯機で洗えない布製品の消毒方法
布団、カーペット、ソファ、ぬいぐるみなど洗濯機では洗うことができないものは、汚物を取り除いたあと濃度0.1%(1000ppm)以上の次亜塩素酸水を吹きかけてから乾燥させます。
乾いたらアイロンで高温のスチームを当てるか、当て布をしてアイロンをかけ高温消毒しましょう。
免疫力を高める
ロタウイルスは初回の感染時に最も重症となり、感染回数を重ねるごとに症状が弱くなっていくため、気づかないうちに感染を繰り返しているであろう成人では多くの場合不顕性感染(ふけんせいかんせん。感染しても症状が出ないもの)となります。
しかし体の免疫力が落ちているときには発症してしまうことがあるため、普段から免疫力を高めておくことが大切です。疲労や不眠、ストレス、栄養バランスの乱れなどから免疫力が落ちてしまいますので、日頃から規則正しい生活習慣を心がけるようにしましょう。
プロバイオティクスによる感染症予防
プロバイオティクスは、アンチバイオティクス(抗生物質)と対の意味をもつ用語として提唱されたのが始まりです。
腸内には数多くの常在菌が存在し、それら腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)のバランスが保たれることで私たちの健康は維持されています。そのバランスが何らかの原因で崩れ、腸内環境が乱れると、体の免疫力が落ちてしまうことが知られています。
つまりアンチバイオティクスが菌を殺して身体を守るというものに対し、プロバイオティクスは腸内の善玉菌を増やすことで健康を維持しようという考え方から生まれたものです。
乳酸菌やビフィズス菌があります。これらを積極的に摂取することで腸内環境が整い、免疫力が向上し、結果としてあらゆる感染症にかかりにくくなることが期待できます。
しかしながら乳酸菌は胃酸や胆汁に弱く、腸に辿り着く前に多くが死滅してしまうとされています。乳酸菌飲料に代表されるヤクルトには生きたまま腸へ届く「シロタ株」が入っているため、効率よく乳酸菌が取り込めると評判です。
免疫力を高めるとされる乳酸菌
前述したように乳酸菌には腸内環境を整える働きがありますが、その整腸効果に加え、直接免疫細胞に働きかける乳酸菌が近年注目を浴びています。
最 も有名なのが、R-1乳酸菌(正式名称「ラクトバチルス・ブルガリクス:OLL1073R-1」)です。R-1乳酸菌は明治の研究によって発見された乳酸 菌で、「強さ引き出す乳酸菌」というキャッチフレーズをCMなどで聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
このR-1乳酸菌は従来の乳酸菌が持つ整腸作用の他に、体内に侵入したウイルスや菌と戦うナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化する働きがあるとされています。
最近では新たに、プラズマ乳酸菌が注目されています。プラズマ乳酸菌は、キリンと小岩井乳業による共同研究で発見された乳酸菌です。
キリンの発表によると、ロタウイルスに感染させたマウスにプラズマ乳酸菌を経口投与した結果、胃腸炎症状が和らぎ腸内のウイルスが感染後2日間で半減したということです。
これら乳酸菌を含む商品は飲料やヨーグルト、サプリメントなどが数多く販売されています。いずれの乳酸菌も100%菌やウイルスの感染を予防できるものではありませんが、少しでも免疫力を高めたいなら試してみる価値はあるかもしれません。
少なくとも腸内の善玉菌が増えるわけですから、体に良い効果をもたらすことは確かでしょう。
初乳に豊富なラクトフェリン
ラクトフェリンとは母乳や唾液などに含まれるタンパク質で、特に初乳(初期の頃出る母乳)に多く含まれています。初乳には免疫力を高める効果があることが知られている通り、ラクトフェリンには病原菌やウイルスなどによる感染症を防ぐ効果があるとされています。
森永乳業の発表によると、ラクトフェリンを16週間摂取した5歳未満の児において、ノロウイルス感染性胃腸炎の発症率が有意に低くなったとしています。
また12週間摂取した5歳未満の児では、ロタウイルス感染性胃腸炎を発症した際、完治まで要した日数が非摂取群と比較して優位に短くなったということです。
まとめ
ロタウイルスの感染力は非常に強いため、家族間での感染を防ぐのは容易ではありません。特に家族に乳幼児がいる場合、家族全員が徹底した感染対策を行う必要があります。
手洗い、汚物の処理、消毒、洗濯などを適切な方法でおこない、感染の拡大を防ぎましょう。
関連記事:ロタウイルス感染症とは?いつから感染?ノロウイルスとの違いは?
関連記事:ロタウイルス感染症でみられる症状は?病院ではどんな検査をする?
参考リンク
一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会|プロバイオティクスのウイルス感染症防御作用