ロタウイルスにはほとんどの児が5歳までに感染しますが、ときとして重症化したり脳炎などを引き起こしたりすることがあります。
ロタウイルス感染症にはワクチンがあり、感染力の強いロタウイルスを予防するには予防接種が最も有効です。
今回はそんなロタウイルスワクチンについて、分かりやすく解説します。
ロタウイルスワクチンとは?
ロタウイルスワクチンとは、ロタウイルスの毒性を弱めてつくられたワクチンです。注射ではなく、経口ワクチン(経口的に投与するタイプのワクチン)で、赤ちゃんにも飲みやすいように甘いシロップ状に仕上げてあります。
ロタウイルスワクチンの効果
接種することでロタウイルスに対する免疫を得ることができ、ロタウイルスへの感染による嘔吐下痢症の発症を防いだり、発症しても軽症で済むようになります。また入院が必要となるほどの重症化を約90%減らし、脳炎などの合併症を防ぐ効果があります。
ただしロタウイルスには多くの型があり、ワクチンで得た免疫とは異なる型のウイルスに感染した場合、免疫が働かなかったり弱かったりすることがあります。
日本では任意接種
ロタウイルスワクチンは、日本においては任意接種(必ず接種しなければならない定期接種とは異なり、接種するか否かの選択が可能なもの)のワクチンです。
しかしロタウイルス感染症は月齢の低い乳児では特に重症化しやすく、脳炎・脳症などの合併症発症率も高いことから、ロタウイルスワクチンはWHO(世界保健機関)の定める小児の最重要ワクチンに指定されており、世界的にも強く接種が推奨されています。
ワクチンの種類はどんなものがある?
2016年現在使用されているロタウイルスワクチンは、次の2種類です。1価と5価ですが予防効果に差はなく、大きな違いは接種回数のみと言えます。予防接種のスケジュールが組みやすい方を選択するとよいでしょう。
最も流行し、かつ重症化しやすい1種類の型(1価)のロタウイルスを弱毒化させたワクチンです。交差免疫によって、タイプの似ている5種類の型のウイルスにも効果があることがわかっています。
重症化するものの98%が、その5種類のウイルスが原因で発症すると言われています。4週間間隔で、2回(1.5ml×2回)の接種が必要です。
5種類の型(5価)のロタウイルスワクチンを弱毒化させたワクチンです。4週間間隔で、3回(2.0ml×3回)接種する必要があります。
接種時期はいつからいつまで?
ロタウイルスワクチンには接種期間が定められており、厳守しなければなりません。期日を1日でも過ぎると接種できなくなりますので、計画的にワクチン接種を進めましょう。
生後14週6日(104日)までに1回目を受け、生後24週(168日)までに2回目を受けましょう。生後24週以降は接種できません。
生後14週6日(104日)までに1回目を受け、生後32週(224日)までに3回目を完了するようにします。生後32週以降は接種できません。
免疫が持続する期間はどのくらい?
比較的新しく導入されたワクチンであるため、明らかな免疫持続期間はわかっていませんが、少なくとも3年間は予防効果が持続するとも言われています。
1年目よりも2年目のほうが予防効果が低くなることがわかっていますが、最も予防したいのは重症化しやすい乳児期であるため、十分な期間と言えるでしょう。
最も症状が重くなるのは初感染時ですので、以後は感染しても重症となる確率は限りなく低くなります。
接種後の副反応はあるの?
重篤な副反応
腸 重積症は1998~1999年に使用されていた世界初のロタウイルスワクチン、ロタシードで報告されていた副反応です。その経験からロタウイルスワクチン と腸重積症の関連が示唆され、現在ではロタリックスとロタテックにおいても、各国で注意深く副反応による腸重積症の推移が見守られています。
その結果現在のロタウイルスワクチンにおいても、若干腸重積症の発症リスクが増加することがわかってきました。ワクチン接種後の2週間(特に初回の予防接種後7日間)は、腸重積症の症状が出現しないか注意して観察する必要があります。
腸重積症の初期症状としては、不機嫌(グズグズが続く)、嘔吐、活気がなくなる、顔色の不良、腹部の張りなどが挙げられます。イチゴジャムのような粘液交じりの血便が出たり、発熱がみられることもあります。
腸重積症の副反応が発症する頻度は、年齢が大きくなるに従って高くなることが分かっています。そのため、定められた接種時期を越える赤ちゃんはロタウイルスワクチンを接種できません。
ロタウイルスワクチンを定期接種に導入している世界各国の調査報告をまとめると、腸重積症の頻度は2万~10万人に1例の割合で認められています。
これは以前のワクチンであるロタシードの腸重積症発症の確率を下回る値で、またロタウイルス感染症によってもたらされるリスクはこれをはるかに上回るため、WHO(世界保健機関)はロタウイルスワクチンの接種を推奨すると結論付けています。
その他の副作用
ぐずり(不機嫌)、嘔吐、下痢、発熱、鼻汁、咳などの副反応がみられることがあります。
接種の際の注意点は?
接種前の注意点
- 腸重積の既往がある赤ちゃんや、腸重積の発症リスクを高める先天性の消化管障害がある赤ちゃんは接種できません。
- 生ワクチンのため、接種後4週間は他のワクチンを接種できません。定期接種の多い時期であるため、スケジュールをしっかりと立てておきましょう。
- 接種できる期間は厳守する必要があります。1日でも過ぎてしまったら接種できませんので注意してください。
- 吐き戻しを防ぐため、接種前の母乳やミルクは控えるようにしましょう。
- その他、医師が問診票の記載事項を見て接種可能かを判断しますので、問診票は正しく記入しましょう。
接種後の注意点
- 接種後吐き戻しても予防効果は期待できるため、基本的に再接種の必要はありません。もし接種後5~10分以内に全てを吐き戻してしまった場合は、医師に伝えてください。ロタリックスの場合は再接種が可能です。
- 副作用として、腸重積症の発症リスクを若干高めるという報告が挙がっています。接種後は腸重積症の症状が出ないか注意深く見守りましょう。
- 接種後1週間程度は便中に微量のロタウイルスが排出されます。念のため児と接したあと(特にオムツ交換の際)は手洗いを徹底し、オムツの処理方法にも気をつけましょう。
ロタワクチンの費用は?
予防接種法で定期接種に定められているものは無料で接種が受けられますが、ロタウイルスワクチンのように任意接種のワクチンは有料(自費)となります。
予防を目的とした任意接種のワクチン費用は、基本的に医療費控除の対象にはならず、医療保険も適応外です。
自治体によっては一部助成が受けられるところもありますので、詳しくは母子手帳や自治体のホームページを確認してください。
費用の相場
病院によって多少金額に差はありますが、料金の相場としてはロタリックスは12000~16000円/回ほど、ロタテックは7000~9000円/回ほどです。
ロタリックスが2回接種、ロタテックが3回接種なので、合計金額は21000~32000円程度になります。
その他のワクチンとの同時接種は可能?
同時接種のメリット
ロタウイルスワクチンと他のワクチンの同時接種は可能です。ロタウイルスワクチンは生ワクチン(弱毒化させたウイルスを使用したもの)であるため、接種後は4週間他のワクチンを接種できなくなります。
乳幼児期は多くのワクチンを接種する必要があるため、全てを確実に接種するためにも、同時接種が可能なワクチンは同時に打つことが推奨されています。
同時接種のメリットとしては、接種することでワクチンで防げる病気(VPD)の免疫をより早期に得られること、接種のために病院へ行く回数が少なくて済むためスケジュールを立てやすいこと、発熱などで接種できなくなったときに接種スケジュールを組み直しやすいことなどが挙げられます。
同時接種の安全性
同時接種は世界中で10年以上前から行われていますが、大きな問題は報告されていません。そのため安全性が確立された接種方法であると言え、世界的にもワクチンの同時接種が推奨されています。
米国では、生後2ヶ月で6種類のワクチンを接種しています。同時接種することによってワクチンの効果が弱くなったり、副反応が出やすくなったりすることもありません。
理想の接種スケジュールは?
予防接種は生後2ヶ月からはじめるのが最も理想的ですが、生後3ヶ月からでも遅くはありません。早めにかかりつけの小児科を決め、接種スケジュールを立てましょう。
生後2ヶ月
生後2ヶ月を迎えたその日に4種類を同時接種します。
- 小児用肺炎球菌:1回目(定期接種)
- ロタウイルス:1回目(任意接種)
- B型肝炎:1回目(任意接種)
生後3ヶ月
生後2ヶ月で受けた予防接種から4週間以上をおいて、5種類を同時接種します。
- ヒブ:2回目(定期接種)
- 小児用肺炎球菌:2回目(定期接種)
- 四種混合:1回目(定期接種)
- ロタウイルス:2回目(任意接種)
- B型肝炎:2回目(任意接種)
生後4ヶ月
生後3ヶ月で受けた予防接種から4週間以上をおいて、4種類(3種類)を同時接種します。
- ヒブ:3回目(定期接種)
- 小児用肺炎球菌:3回目(定期接種)
- 四種混合:2回目(定期接種)
- ロタウイルス(ロタテックのみ):3回目(任意接種)
生後5ヶ月
生後4ヶ月で受けた予防接種から4週間以上をおいて、2種類を同時接種します。
- 四種混合:3回目(定期接種)
- BCG(定期接種)
BCGが集団接種(市区町村などの自治体で行うもの)で同時接種できない場合は、四種混合の接種から1週間以上おいてBCGを接種するスケジュールとなるよう日程を調整する必要があります。
ロタウイルスワクチンの接種は必要?
高い費用がかかるものですので、ワクチンの必要性については気になるところではないでしょうか。
ワクチンを受けることによるメリットは大きいですが、デメリットはほとんどありませんので、あとは費用の面やスケジュールの都合で接種するか否かを決めることになるでしょう。
治療法はなく予防が肝心
ロタウイルスに感染して発症してしまった場合、根本的な治療法はありません。基本的には下痢や嘔吐で脱水にならないよう対症療法を行ないながら、症状が治まっていくのを待つことになります。
日本では死に至るケースはほとんどありませんが、約10%が重症化するとされており、また合併症の脳炎によって後遺症を残してしまうケースもあります。そうした事態を防ぐためには、予防が最も肝心なのは言うまでもありません。
ロタウイルスの感染対策は困難
ロタウイルスは感染力が非常に強く、10個程度のウイルスが口から入っただけでも感染をきたすと言われています。つまりどんなに感染対策を徹底しても、完全に感染を防ぐことは不可能に近いのです。
身の回りのどこにでも存在し得るロタウイルスに、免疫のない乳幼児が感染をきたすという流れは不可抗力とも言えるため、5歳までに大半の児が1度は感染してしまいます。
ワクチンで免疫を獲得しよう
感染力が強く誰もが幼少時に感染してしまうロタウイルスですが、重症化するか否かは誰にも分かりません。誰にでもその可能性があるからこそ、感染する前にワクチンを接種することで免疫を得ておくことはとても重要です。
ロタウイルスワクチンを接種すると、未接種の場合と比較してロタウィルス胃腸炎の発症数を68~79%減らし、重症となる例を90%~98%減らし、入院となるケースを96%減らすことが明らかとなっています。
こうしたデータからもわかるように、ロタウイルスワクチンはロタウイルス感染症によるリスクを減らすためには非常に有用で、接種が推奨されるべきものであることがわかります。
2016年の現段階では任意接種であるため高額な費用が必要となりますが、赤ちゃんの身を守るためにも是非とも接種させておきたいワクチンです。
まとめ
ロタウイルス感染症の予防には、予防接種が最も効果的です。しかし高額なワクチン代が自費負担となることや、接種期間が限られていることなどから、日本でのワクチンの普及率は半数程度に留まっています。
任意接種であるため接種を受けるか受けないかは保護者の判断に委ねられますが、ロタウイルスは誰しもが感染するものですので、重症化や合併症発症のリスクを低下させるためにも積極的なワクチン接種が望まれます。
ロタウイルスワクチンの接種時期は多くのワクチンを接種しなければならない時期ですので、あらかじめゆとりをもったスケジュールを立てて計画的にワクチン接種を進めましょう。
関連記事:ロタウイルスへの感染対策と予防法は?どうやって消毒すればいい?
関連記事:ロタウイルス感染症の治療法は?感染時の正しい過ごし方まとめ
参考リンク
NPO法人VPDを知って子どもを守ろうの会|同時接種の必要性・安全性
NPO法人VPDを知って子どもを守ろうの会|ロタウイルスワクチン
NPO法人VPDを知って子どもを守ろうの会|予防接種スケジュールを立ててみよう!