低身長をきたす原因は?各疾患における治療法を解説

元気がない子供育児

低身長症をきたす原因はさまざまですが、家族(遺伝)性のものや体質的なものが多く、低身長症全体のおよそ95%を占めます。

残りの5%はホルモンの分泌異常などが原因で引き起こされるものであり、有効な治療法が確立しているものもあります。

今回は低身長をきたす原因についてや、各疾患における治療方法などを解説します。

スポンサーリンク

低身長症をきたす原因は?

医者と子供

低身長症をきたす原因には、次のようなものが挙げられます。

成長ホルモン分泌不全性低身長症

「成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)」は、成長ホルモンの分泌量が少ない病気です。

本来成長期には、下垂体から成長ホルモンが盛んに分泌されるものですが、その成長ホルモンが何らかの原因でうまく分泌されなくなると、身長の伸び率も悪くなってしまいます

原因

成長ホルモン分泌不全性低身長症のうち、器質的な原因(何らかの病気)によるものは10%程度です。

器質的要因となり得るものとして、頭蓋咽頭腫や胚芽腫といった脳の病気や、骨盤位分娩(逆子)、新生児仮死、新生児黄疸の遷延などといった周産期異常によるものが挙げられます。

その他原因がはっきりしない特発性のものが、約90%と大半を占めます。特発性のものは女児よりも男児に多く、男女比はおよそ2.2:1とされています。

症状

出生時体重は標準であったにもかかわらず、その後の成長率が悪く低身長をきたします。

乳幼児期から成長率が低いことが多く、3~4歳頃には既に低身長の定義となる「-2SD」を下回っているケースが多くみられます

その後も成長ホルモンの分泌量が少ない状態が続くため、同性、同年齢の子どもの標準値より、さに身長差が開いていく傾向にあります。

SGA性低身長症

「SGA」とは、在胎週数(お母さんのお腹の中にいた週数)に応じた標準的な身長や体重よりも小さいという意味です。在胎週数が同じ赤ちゃんが100人いれば、小さい方から9番目までがSGAに該当します。

しかしSGAであっても、約9割は3歳になるまでの間に身長や体重が標準の範囲に追いつきます。その時期になっても追いつかなかった残りの1割が、「SGA性低身長症」と診断されます。

原因

在胎週数よりも小さいということは、出生前から既に子宮内発育不全の状態にあったということです。

子宮内発育不全は妊娠中の母体の極端な体重制限や、栄養バランスの偏り、喫煙などが原因になることがありますが、必ずしも原因が明らかなものばかりではありません。

症状

SGA性低身長症では、成人になっても標準的な身長を下回ることが予想されます。また成人してから、糖尿病や肥満、高血圧といった生活習慣病になりやすいことがわかっています。

思春期早発症

落ち込む女性

思春期は心身共に子どもから大人へと移行する時期を指しますが、この変化には性ホルモンの分泌が影響しています。

一般的に女児は10歳頃、男児は12歳頃から身体にさまざまな変化が現れはじめますが、これが通常よりも早く始まってしまうものを「思春期早発症」といいます。

原因

思春期早発症は、副腎や性腺の器質的な疾患による「末梢性思春期早発症」と、ゴナドトロピン放出ホルモンが早期に分泌されてしまうことによる「中枢性思春期早発症」に大別されます。

このうち中枢性の思春期早発症ではさらに、脳の器質的疾患による「器質性中枢性思春期早発症」と、原因が不明な「特発性中枢性思春期早発症」にわけられます。

思春期早発症の大半は原因が明らかでない「特発性中枢性思春期早発症」であり、特に女児に多くみられます

症状

思春期が早期に始まると、早いうちに骨が成熟してしまうため、身長の伸びも早い段階で止まってしまいます。思春期早発症の具体的な症状としては、次のような変化がみられます。

男児の場合
  • 9歳までに精巣(睾丸)が発育する
  • 10歳までに陰毛が生える
  • 11歳までにわき毛やヒゲが生え、声変わりがみられる
女児の場合
  • 7歳6ヶ月までに乳房の発育がみられる
  • 8歳までに陰毛やわき毛が生える
  • 10歳6ヶ月までに生理が始まる

染色体異常(ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群)

ターナー症候群

「ターナー症候群」は女性にみられる染色体異常で、割合は2000人に1人程度と比較的高頻度にみられます。ターナー症候群では、本来2本あるはずのX染色体が1本しかなかったり、1部が欠けていたりします

心臓病や難聴などの合併症をもつこともありますが、そうした合併症がない軽症のケースでは、幼小児期からの発育不良によって初めて気づかれることもあります。

卵巣の発育が悪いため、思春期年齢に達しても乳房の発達や陰毛の発生、月経がこないといった症状がみられます。成人期に入ると、骨粗鬆症や糖尿病などの発症率が高いことも問題になります。

プラダー・ウィリー症候群

「プラダー・ウィリー症候群」は15番染色体に異常があるもので、頻度は10000人に1人程度です。低身長、性腺の発育不良、筋緊張の低下、肥満、発達障害などの症状がみられます。

骨の病気(軟骨異栄養症)

レントゲン写真

軟骨異栄養症(軟骨無形成症や軟骨低形成症)では骨や軟骨に異常があるため、身長の伸び率が低くなります。胴に比べて手足が短く、全体的な体のバランスが不均衡であることが特徴です。

軟骨無形成症の成人男性の身長は130cm程度、女性は122cm程度と、著明な低身長がみられます。軟骨低形成症では、軟骨無形成症に比べて低身長の度合いは軽度とされています。

その他の病気

甲状腺機能低下症、心疾患、腎疾患、代謝疾患、糖尿病などによっても低身長をきたすことがあります。

病気以外の原因

低身長の原因としては、病気によるものはごく一部で、原因が不明とされるものが大半を占めます。

両親が小さいといった遺伝的要因や、ストレスなどの心理的要因、食事や睡眠などの生活習慣なども影響するとされています。

低身長症でおこなわれる治療法は?

病院で治療をする子供

検査の結果低身長をきたしている原因が明らかとなった場合、それぞれ次のような治療が行われます。

成長ホルモンの分泌量が少ないケース

成長ホルモン分泌不全性低身長症など成長ホルモンの分泌が少ないケースでは、成長ホルモン治療が適応となります。

人工的に作られた成長ホルモン薬を、毎日、もしくは週に6回、就寝前に皮下注射します。病院で注射手技を教わり、自宅で自己注射することになります。

注射器はボールペンのような形をしており、手元のボタンを軽く押すだけで難しくはありません。注射針も細く短いので、痛みも少ない仕様になっています。

個人差もありますが、成長ホルモン治療を行なうと身長の伸び率がこれまでの1.5~2倍程度になるとされています。しかし周囲の子も成長していますから、身長が標準相当に追いつくまでには数年を要します。

副作用

重大な副作用はほとんどありませんが、注射部位や全身に発疹がみられることがあります。

毎日注射する必要があり、同じ場所に注射を繰り返していると皮下脂肪がへこんでしまうことがあるため、注射部位は毎日変えるようにしましょう。

まれに、頭痛や吐き気などの副作用が生じることもあります。それらの症状がみられた場合は、すみやかに主治医に報告してください。

治療開始と終了の時期

早期に治療を開始するほど、高い治療の効果が期待できます。骨年齢が10歳以下ではじめるのが望ましく、それ以降になると治療効果が低くなってしまいます。

基本的には治療効果が持続している間は治療を継続し、身長の正常化を目指します。一般的に骨年齢が男子17歳以上、女子15歳以上になると治療効果が薄くなるとされています。

適応となる条件

成長ホルモン薬は非常に高額なものですから、公的医療保険の適応は必須条件といえます。そのためには、成長ホルモン治療の診断基準を満たす必要があります。

成長ホルモン治療が健康保険の適応となるのは、成長ホルモン分泌不全性低身長症、SGA性低身長症、ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、軟骨無形成症、慢性腎不全です。

医療費が一定額を超えた場合は高額療育費制度を利用でき、また小児慢性特定疾患の助成が利用できればさらに自己負担額は少なくなります。

成長ホルモン治療が受けられる条件や、小児慢性特定疾患の医療費助成制度を申請できる条件などについては細かな基準が定められていますので、病院などで確認してください。

性ホルモンが早期に分泌されるケース

性ホルモンが早期に分泌される思春期早発症では、性ホルモンの分泌を抑える治療が行われます。

LHRHアナログという薬を定期的に注射し、精巣や卵巣を刺激するLHやFSHを抑えることで、性ホルモンの分泌を抑えます。

思春期の身体的な変化は性ホルモンによって起こるため、性ホルモンの分泌を抑えれば思春期の進行が緩やかになり、骨の成長も緩徐になることで身長の伸び率も高まることが期待できます。

注射のペースは身長や体重の推移、性ホルモンの変化などによって細かな調整が必要であるため、小児科の中でも内分泌の専門医に診てもらうのが望ましいでしょう。

副作用

重大な副作用はほとんどありませんが、注射部位の発疹や硬結がみられることがあります。初潮前の女児の場合、初回の注射をしてから1~2週間後に性器出血(初潮)がみられることがあります。

また性ホルモンは思春期において骨を強くする働きがあるため、治療が長期に及ぶ場合は定期的に骨密度を測定する必要があります。

治療を終了する時期

治療効果は個人差も大きく、いつ治療を終了するかについては統一的な見解はありません。

思春期年齢に到達すると治療を中止するケースもありますが、最終身長を標準値により近づける目的で治療を行なう場合は、治療期間は長くなる傾向にあります。

しかし骨年齢が13歳前後(女児の場合)に達すると、それ以降の身長の伸びはあまり期待できないとされています。

[surfing_other_article id=9948]

まとめ

例え低身長であっても、そのうちの多くは有効な治療法はなく、治療の対象とはなりません。

ただしホルモンの分泌異常が低身長を引き起こしているケースでは、それぞれの原因に応じた治療を行なうことで、身長の伸び率を高めることができます。

治療を受けるには診断基準を満たす必要がありますので、まずは低身長の検査を受けることからはじめましょう。

より早期に治療を開始するほど高い治療効果が期待できるため、周囲と比べて身長が低いと感じたら、早めの受診が望まれます。

お子さんの栄養面が気になっている親御さんへ

参考リンク

小児慢性特定疾病情報センター|成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症

西新宿整形外科クリニック|SGA性低身長症について

日本小児内分泌学会|低身長

日本小児内分泌学会|思春期早発症

武田薬品工業株式会社|思春期早発症の原因

武田薬品工業株式会社|思春期早発症の治療法

子どもの低身長を考える成長相談室(Pfizer)|成長ホルモン療法の副作用

妹尾小児科|成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性小人症)

難病情報センター|軟骨異栄養症(平成21年度)

タイトルとURLをコピーしました